賢さが上がった! 魔法の技術が少し向上した!
「おうソウジ、こっちの洗濯は終わったから」
「ハイ、乾かしときますよ」
「そのシャツなんだけど―――」
「はい、分かってますよ。天日干しですよね。魔法で急速に乾かすと生地が傷むやつですもんね」
「いつもサンキュな」
「それは言わない約束ですよおとっつぁん」
「アタイは女だよ!」
「知ってますって」
………
……
…
団内のメンバーと日々交流しながら、各々と絆を深めていった。
とはいえ、人により過去を話してくれたり決して話したがらなかったり色々だが、別に過去を知っていようがいまいが、絆というのは一定程度育めるものだ。別にそれでいい。
さて、俺の最終目標たる元の世界への帰還についてだが、これに関しては日頃からできることが限られている。
戦闘に関する鍛錬、またこの世界の情勢についての情報収集に終始することとなるからだ。
思えば、王城にいる間にやっておけば良かったという後悔もある。
王様のところへは、例えばこのアジトから王都までの道のりのように何日もかけて歩かなければならないわけでもなかった。会おうと思えばどうにかして会えたかもしれないし、また、魔法に詳しいと思しき人物については誰かの言及にあったはずだ。
当時は自身が軟禁されたことによる恐怖と動揺で視野が大幅に狭まっていたのだと思う。
楽しんでいるようでいて、実は俺自身、しっかり怯えていたんだなと痛感。
「ま、所詮俺なんてその程度………」
今、俺はアジト近くの山林で、魔法の鍛錬を自主的に行っていた。
もはや俺の魔法の習得に関してはオヤジの手を離れて久しく、近接戦闘などに関してはドラなどに教えてもらうこともあるが、その頻度も明らかに少なくなっている。
着々と、自分がこの世界で生き残れるタイプの人間として完成されていくのに安堵し歓喜する一方で、もうこの世界に染まっちまっていいのかよ、帰るつもりはあるんだろうなと不安がる自分自身もいる。
もちろん、帰るつもりではいる。
しかしさしあたり、生き残らなければ意味がない。元の世界に帰ろうとして死んだのでは、じゃあ俺が死ぬことをあの心優しき養親が喜ぶかと言われれば、当然ノーなわけで。
俺は、まだ何も恩返しできていないのだ。
自分を育ててくれた、血の繋がらない両親に。
「―――はっ!」
思考の過程で気合の入った俺の魔法、【ウォーターカッター】。
見える範囲の樹木を切り倒し、当面の薪を確保しよう……とか思ったが、切り倒した後でびしょ濡れの木々を見て反省した。
まぁ、木材なんて後でしっかり乾かせば大丈夫だよな!
ちなみに俺の、現時点で一番使用頻度の高い魔法であり、奥義を除けば一番頼りになる、この【ウォーターカッター】だが。
「うーん……何度見ても不思議だ………」
その射程はおよそ二十五メートル。
ただ今は、この高圧噴射の水の線、いや水でできた、細い剣(ただし攻撃力は桁外れ)の、出力の際の現象に始まり、魔法そのものついて考察していた。
思えば、水魔法に限らず、魔法というのは重力や空気抵抗その他のあらゆる物理現象、つまり物理法則から逃れられないもののように思う。
魔法は実際、魔力を元に現実に影響を及ぼすというファンタジー的なものでありながら、そういった側面を持ちつつも、魔法の「発生」以後は、しっかりと物理法則に従っているのだ。
例えば火炎放射の魔法なんかが分かりやすいだろう。
文字通り、かざした手の先から炎を噴射する魔法だが、待て、手から炎を発生させる? とか普通は疑問に思わないだろうか。
そんなことをしたら、手が焼け爛れてしまうではないかと。タンパク質の塊である生物から炎が出たら、自身がこんがり焼けて終わりだぞ、と。
ただ、実際の魔法の出方は異なった。
手の先、数ミリとか数センチの距離を空けて、この不自然な空間を経て魔法というのは物理次元に観測できる現象として現れるのだ。
今挙げた、魔法の行使者に影響を与えない程度の距離、数ミリだの数センチだの、この辺は魔法により個人により、あるいは当日の調子により変化するらしいが………。
とにかく、都合が良くできているようにしか思えないこの辺の事象が、俺にはどうしても気になった。
あるいは―――この「何も見えない/何もないように見える」空間こそ、自身の身体から漏れ出した“魔力”が“魔法”という「現象」に変わる過程の何かではないか、と。
「うーん………」
仮説を立てても立証しようがないのは悲しいところだ。今まで俺が見聞きしたマンガだのアニメだので、この辺を解説してくれたものはない。
とまぁ、この辺のことを、例えば頼りになる人に聞いてみた。
ニールのアニキ、モッチもドラなどアニキ達は揃って「さぁ?」。
オヤジは「知らねぇ。考えたこともねぇ」。
終わりである。
対戦ありがとうございました。
「迷宮入り決定」
後日、俺は疑問に起こったこと全てが途端に解決するようなファンタジーはないことを再確認しつつ。
もう諦めていたが、エレンに同様のことを尋ねてみた。
「魔力を通さない素材があったら、それに手をぴったりくっつけて、向こう側に魔法が出るか試してみる……とか……?」
「……!」
自信なさそうに言ったエレンの、その天啓に等しい叡智に触れ、俺は衝撃を受けた。
「魔力を通さない素材って何だ?」
そうなるともう、俺は教えてクンになってしまう。
「分かんないけど……土魔法って土は操れるけど、元々その辺にある岩の形って操れたりしないんでしょ?」
「いや、どうかな………」
土魔法に関してはそれほど堪能でないため確定的なことは言えないが、どうやらその辺に岩を出現させ投げつける魔法があるとかないとか。
「ソウジって学者肌なんだね」
「いや、そんなことはないと思うけどな」
以前よりさらに銀髪が伸び、頭の後ろでポニーテールのようにまとめたエレン。少し身長が伸びた俺。
互いに並んで森を歩きながら他愛もない話をしつつ、魔法の研究に勤しむのだった。




