変な日常
さて、城から戻り、元の生活、日常に回帰したはいいものの―――。
「どこ行くの」
「洗濯物の様子見に」
「ウチも行く」
「はぁ?」
なぜかエレンの距離が近い。
同年代の俺が一ヶ月の間、城に滞在していたから、遊び相手がいなくて寂しく思ったのかもしれない。
なんだ、可愛いとこあるじゃん、くらいに思っていたのだが。
「どこに行くの」
「干し肉を作らなきゃな」
「ウチも行く」
「……おう。じゃ手伝え」
「うん」
……朝の狩猟の時も思ったが、何だかやけに俺の後をついて歩きたがるエレン。
一緒に洗濯物を取り込んだり、干し肉作成を手伝ってくれたりと、その助成がありがたい一方で。
「どこに行くの」
「トイレだよ」
「ウチも行く」
「はぁ!?」
かつて、性別すら隠していたエレンは、その時にも俺との連れションは嫌がっていた。
それはそうだろう、女の子だったのだから。今なら分かる。そういう事情だったんだってな。
しかし………だからこそ、今になって俺のションベンについて来ようとするのは意味が分からない。
寂しかった反動だとしても、ちとやり過ぎだ。
「見るなよ! 絶対だぞ!」
「うん。周りは見張っとく」
「お、おう……そりゃ、助かるけど………」
周辺の魔物は大体狩り尽くしたので大丈夫だとは思うが、無防備になるトイレの間、周囲を見張ってくれるのはありがたい―――じゃなくて。
「ふぅ………いっぱい出たな」
ほかほかと湯気の立つ地面を後に、水魔法で軽く手を洗って茂みから出た俺に。
「どこ行くの」
「………お前、他にすることないの?」
「ない」
「……」
傭兵団の皆は自分の仕事があるし、皆がやることをきちんとやっているから我々は、というか世の中は回っているというに、まったく、この子は………。
「オヤジに怒られるぞ」
とりあえずそう言い置いて歩く俺の背に、やっぱりエレンはついて来る。
「あのなぁ」
立ち止まり、振り返った俺に、エレンは少しだけムッとした様子で言い返した。
「オヤジがそう言ったんだもん………」
「えっ、オヤジが?」
「うん。お前はソウジの側近でもいいかって聞かれたから、『うん』って答えて、そしたらオヤジが『そうか』って」
「………………………………………ん?」
ちょっと待って、事情が呑み込めない。
「えっ、それ………それだけ………じゃない、そもそもどういう………」
「ウチ、ソウジの側にいていいって、認められたんだ」
「………???」
……はて? どういうことかな?
エレン、頭おかしくなったのかな??
初めの内はそう思っていた俺だが………オヤジに直接、おかしくなったエレンのことを聞いても、どうやらエレンの言う通りで間違いないらしかった。
背後にエレンを従えるかのような格好の俺に、オヤジは言う。
「テメェはいずれ団を背負う人間になるだろう。星詠みの爺さんが言ったように、テメェには並々ならねぇ何かがあるようだしな」
「………」
そうなのだろうか。
俺にとって、あの星詠み?の爺さんのしてくれた話は、正直、老人の与太話くらいにしか思っていなかった。
もちろん、一定程度、神秘の存在を認める余地があるとしても………そう大袈裟に捉えるものでもないと思っていた。
しかし、オヤジは違うらしい。あの老人の話を真に受けているというか、妙に信じているフシがある。
「………今の俺が生きてるのも、あの爺さんのおかげだからな」
「………」
オヤジと星詠みの爺さんの関係が謎だと思っていたが………そうか、恩人ってわけか。
「ま、もう少しすれば、テメェも何か有用な話が聞けるかもしれねぇな」
彼らの過去について知るわけじゃないが、そう語るオヤジはどこか懐かしそうだった。




