束の間の
「ソウジなんて、ずっと城にいれば良かったじゃんっ!」
「えぇ……?」
俺が城から戻ってからこっち、ずっとプリプリしているエレン。
帰還直後は俺も皆に話をしたりと忙しかったから、目立った衝突はナシにしてくれていたようだが………朝の狩猟にと、いざ二人で出かけてみると、この通り。
「そんなにお姫様が良かったんだっ! なら、ずっとその人のお世話してれば!?」
「どういうことだってばよ……」
俺としては、皆の所に戻ったら急にへそを曲げられた感じなので、対応に苦慮するばかり。
話しかけるごとに今みたいな台詞が飛んでくるわけなので、取り付く島もないとは、まさにこのこと。
「なぁ、いい加減に機嫌直してくれよ」
「ソウジなんて知らないっ!」
「悪かったよエレン。心配かけて悪かった」
傭兵団の他の皆は、良くも悪くも年長者。だから同期……いや同い年くらいの人間は、俺とエレンくらいのもの。
せめて仲良くしてくれたらなぁと思うのだが、今はそれが難しい。
俺も謝ってはいるが、なかなか許してもらえない。
そもそも、『ソウジに対する褒美として一ヶ月の間我が城に住まわせる』的なことを約束していたらしい王様も王様だし、そう言い渡されて了承したオヤジもオヤジだし。勝手な大人達によって作られた状況が今なわけで。
本人、つまり俺の与り知らぬところで色々な取り決めが行われていたとうことなので、その辺に関しては俺に非はないはず。
となれば、今エレンが怒っているのは別の部分か。
やはり、大人の事情を絶妙に聞かされていなかった彼女は、俺のことをそれはそれは心配してくれていたとみえる。だからこうして、心配していた自分が馬鹿みたいじゃないかと怒っているのだろう。
………うん。それだって、やっぱりオヤジ達が悪いと思うんだけどな、俺は。
でも、謝る。こういう時は、そういうものだ。理屈じゃないのだ。動揺し、感情的になり、今だって半泣きになりながら怒っているエレンを宥めるには、そうするしかない。今は狩りの前にそれをすべき。
「エレン、心配かけたね」
「………っ!」
面と向かい合っても目すら合わせてくれないエレンを抱きしめた。
小さい頃、俺もよく養親に抱きしめられた。子供はこうすると落ち着くのを、俺は幼い頃の経験から知っている。血の繋がりとかは、関係ないらしい。
「………ほんと、だよっ! ウチ、めっちゃ心配したの、にぃ……!」
「ああ……」
ぽろぽろと涙をこぼすエレン。
もしかして、この状況を見る第三者がいれば、「なんだ、そんなこと」と呆れでもしたかもしれない。
けれども、子供が泣く理由など、不機嫌になる理由など、得てして些細なことだ。
些細なことで、不安になったりするものだ。
「ソウジ、もう、いなくなっちゃう、って………会えないかも、ってぇ………!!」
「うん、うん、心配かけてごめんよ、エレン」
腕の中でわんわん泣くエレンの背を撫でる。
しゃくりあげる彼女の華奢な身体に、確かな熱がある。
ああ、これ、俺も落ち着くな。
長らく、人と抱き合ったりなんてしていなかったのもあるかもしれない。
「ソウジ、ソウジぃ………!」
「ああ。俺はここにいるよ、どこにもいかない」
「ソウジっ……ぃぃ………!」
「……」
言ってて自分で反吐が出る。何が「どこにもいかない」だ。
いずれ俺は、元の世界に帰る。
この世界との縁もそれまで。当初は、というか、今でもそう考えているフシが、確かにあるのに。
「ソウジ、ソウジぃ! そばにいて! ずっと、ずっと……!」
「ああ、もちろんだ」
そう言って、彼女の美しいプラチナブロンドの髪を撫で梳いている間、俺は自分自身のだらしなさに呆れるのだった。




