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【毎日更新】ユウシャ・イン・ワンダーランド ――ゼロ・ローグ―― ~異世界に来た元サラリーマン、異世界ライフのスタートは野盗の群れでした~  作者: むくつけきプリン
ライフ・ライク・ローグ

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初めての狩りin異世界。もぅムリだょ、と元社会人の俺は思うんだ

 この傭兵団だか野盗団の日々の稼ぎというのは、例えば他の組織を潰した果てに得られる財宝とか、回数は少ないが年に数回のダンジョン挑戦とか、あるいはお貴族サマからの何かしらの依頼であったりと多岐に渡る。共通しているのは、毎日欠かさずとか、毎度おなじみとか、そういった安定性は無いというところだ。

 経済の悪化と非正規雇用の増大に伴う雇用の不安定化が問題視されていた現代でも、日雇いの労働者のネカフェ泊まりなんかがテレビで報道されていた。

 しかしここは異世界。たとえ不安定な日雇い労働者のような暮らしであれ、とにもかくにもそれが個人でなく組織となれば、互いを補い合って何とか暮らしていけるものらしい。

 ………まぁ、時折ほぼノーコスト・ノーギャラの”狩猟”を挟むのも、当然と言えば当然か。

 なにせ自分達で食べる分を自分達で狩るわけだからな。

 つまり、()()なるということで―――。

「おいソウジ! 何だそのへっぴり腰は! 野郎どもから習った剣の扱いはどうした!」

「はっ、はいぃ!」

 ………おかしいな。

 なんで俺は、こんなところで足腰を震わせながら剣を握り、デカいイノシシと対峙しているんだろうか。

『グルルルル………!』

 なんかめっちゃ(うな)ってるし。

 てか牙デケぇ。マンモスみたいに前方にせり出し、大きく弧を描く長い牙。あれに貫かれたら余裕で死ねるなぁ……。

 そういえば元の世界でも、イノシシに襲われた人間が、例えば太ももの付け根あたりをイノシシの牙で貫かれて大怪我を負ったというような恐ろしい話はあったよな。

 目の前のイノシシは全長がヒグマくらいある。しかもこれで小さい方なのだとか。あれ、太ももの付け根に大きな怪我じゃ済まないわ。普通に四肢をバラバラにされそうだわ。

 異世界ヤバくね? 俺、慣れてきたとか思ってたけど、ちょっと認識を改めなきゃならないだろ、これは。俺なんか、まだまだ一人じゃ生きていけないわ。

 自信付き始めたのに心がポッキリ折れそうだ。

「お、オヤジ……アイツ、なんか固まってないか……?」

「………」

 周りは静観している。

 この野盗集団……もとい傭兵部隊の頭であり最強の男・オヤジ率いる四人の精鋭狩猟部隊に、俺が一人加わった形。俺以外は俺の成長を見るとか言って、こちらをじっと観察している。

 助けてくれよ。

 もう無理だ。

 元々の暮らし……会社員生活ってのは、確かに辛いことも多いけど、こうして分かりやすく命をかける日常じゃないからな。

 偶に電車が止まるけど………あれはまぁ、人にかける迷惑も考えられなくなるくらい追い詰められた人間の末路でしかないわけで。突発的な死は、命をかけるっていうのとも違うし。

 元の世界と比較すればするほど、味わうのは口惜しさ、思い出される寂しさ。

 ああもう、帰りたい……。

 元の世界に帰って、義父母から提供される温かく美味しい食事に舌鼓を打ちたい。

 そういえば……しばらく実家にも帰ってなかったな……。一人暮らしで、自分のことに忙しくて。

 最後くらい、両親に挨拶してから異世界なんぞに転移したかったよ。

 こうしてみると、俺は、血の繋がらない他人の………義理の両親の愛で生かされてきたことが分かる。

 そういえば………最後は俺もロリっ子を守って死んだ(?)みたいな感じになったが、元の世界でのあのロリハルカだけでなく、両親は………どうなったんだろうな……??

「なにボサっとしてやがる!」

「!?」

 気付けば、デカいイノシシとの彼我の距離は五メートルくらいにまで縮まっていた。縮地の達人ならすぐに詰められる距離。それが野生動物なら尚更だ。

 いつの間に。

 俺は確かにぼうっとしていたが、しかし目は離さなかった。

 ジリジリと、まるで徐々に変化する絵みたいに、かなりゆっくりと距離を詰められたのだ。

 ………あれ?

 つまり俺は今、野生のデカイノシシに戦闘の駆け引きで負けたってことじゃね?

「詰められてんだよ! 構えて威嚇しろ!」

「そんなこと言ったって……!」

 いつも俺の面倒を見てくれたニールのアニキ、略してニールニキが慌てて怒鳴りながら、アドバイスをくれる。

 いやいや、俺は今構えてるんだよ。剣を。必死に。

 それこそ「く、来るなぁ!」って言いながらの、へっぴり腰だけど。なんかその辺の三下みたいな格好にはなってるけど。これでも必死にイノシシを威嚇し、駆け引きに持ち込もうとしてるんだ。

 ………そしてそれは、どうやら俺の勘違いだったらしい。

 気付いてしまった。

 俺の構えなんぞ野生(向こう)からすれば駆け引きでも威嚇でもなんでもなく、ナメられる程度のものでしかない。弱さがバレている、と。

 既に駆け引きは始まっていて、俺は野生のデカイノシシによって獲物認定されてしまったのだと。

「――チッ!」

「あのバカ―――!」

 オヤジの舌打ちが聞こえて、次の瞬間には俺のイノシシの間に割り込むように、ニールニキが立ちはだかる。

 ニキは、剣を持っていた手に力を込め防御の構えを取りつつ、詠唱。剣を持っていない方の手で魔法を行使。

 彼のかざした左手から、火炎放射のように火が出た。

『グルルッ―――』

 火を見た(イノシシ)が怯む。当然だ、そのまま突っ込んだら焼き豚になっていた。

 しかしそれはつまり決め手ではない。だからニールニキは、獣が怯んだ隙を見逃さない。一歩を引いたこのイノシシは、攻撃に転じることができない。

「ぅおりゃぁっ!!」

 ニキが一瞬で踏み込み、掛け声を出し、そして一閃。

『グルルゥプギッ!?―――――』

 ニキのその手に持った長剣が豪快に振るわれ、剣の芯で捉えられたイノシシの頭は、次の瞬間には真っ二つになっていた。断末魔のようなものがあったが、それもほんの一瞬のことでしかない。

『………………………』

 声もなく、ドッ……と大きな音を立てて地面に倒れるイノシシ。

 軽い地響きがこちらにまで伝わるほどの重量だったらしい。

 モザイクも何もあったものじゃない、二つに割れた頭部から血を流すイノシシのグロテスクな死体を前に、俺は思った。

 そりゃ俺みたいなやつじゃ勝てねぇよ。

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