一つの思い出、幸せなひと時の終わり
俺が姫様に気に入られ(?)城に滞在し始めてから、はや一ヶ月。
俺に対する大人の接触は、一部を除けば不気味なほど少なく、それこそまるで姫様にあてがわれたオモチャのように、放っておかれる日々。ただそのことに対する寂しさは無い、ほかならぬ姫様本人が、俺を構ってきて構ってきて仕方ないからだ。
………いや。
正確には、構って構ってと寄ってくる姫様に、俺が構ってやっている、というところなのだが。
問題は、俺が別のことに寂しさを感じている点だ。
あれだけ長い年月(二年強)を共にし、それなりに絆を育んだ傭兵団の誰も、俺と言う人間を回収しに来てくれない。
まったくどうなってやがる。
流石に寂しいぞー。皆、また俺の美味しい料理食べたくないのかー?
………俺、まさか捨てられた?
え、マジ?
借金のカタに売られでもしたの???
どうなってんのー!?
誰かー!
俺が本気で城での生活について考え、ひょっとしてこのままずっと………なんて恐ろしいIFの未来に考えが及んだ時分のこと。
「………………ねぇソウジ、ずっとこの城にいる気はないかしら?」
「?」
そう、胸の前でギュッと両手を握り込んで、俺に上目遣いで問うてくる姫様。
握り込んだ両手は震えているし、こちらを見るその両目も潤んでいる。
拒絶されるのが、否定されるのが怖くて、それでも勇気を出してくれたのだと分かる、健気な仕草、表情。
髪型こそ金髪ドリルロールでお高く留まったお貴族様っぽいが、彼女の姫様という身分は本物、血筋も、身に着けた気品も本物で、その可愛らしさも本物だった。
ただ、そんな姫様にそんな可愛らしく健気にお願いされても、無理なものは無理なのである。
思わず抱きしめて頭を撫でたくなるような金髪ドリルロールだが、カワイイカワイイとかいぐりかいぐり、頭をワシワシ撫でてやりたくなる高貴なガキンチョだが、俺にそんな無礼は許されない。
なぜなら俺はゴロツキで、同い年の男だから。
そういうのは一定以上の身分で高身長のイケメンにしか許されない振る舞いだろう。
………いや違う。
俺がそのように振る舞えない、いや振る舞うわけにはいかない理由が、ちゃんとある。
俺にはそもそも、帰らなければならないこの世界での居場所があって、そしてまたさらに、いずれは最終的には帰らなければならない、俺のいた世界の存在があるからだ。
「無理を言っているのは分かっているの。でも………もし、ソウジにその気があるなら、私―――」
「―――ソウジ」
「へっ!?」
名前を呼ばれたのは俺で、しかし驚いたのは姫様だった。
見れば、俺達のいる部屋の扉を開けて、入り口に見慣れた衛兵の一人が立っていた。
彼は、俺からすればおよそ歓迎すべき知らせを持って来てくれた。
「迎えだ」
衛兵は努めて俺だけに視線を固定し、淡々と言い放つ。
「そんなっ………!?」
彼の持って来た知らせに絶望の声を上げたのは、姫様だった。




