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【毎日更新】ユウシャ・イン・ワンダーランド ――ゼロ・ローグ―― ~異世界に来た元サラリーマン、異世界ライフのスタートは野盗の群れでした~  作者: むくつけきプリン
お城に招かれて

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今の生活が悪くないとか少しずつ思い始めた自分が怖い

 ―――姫様の距離感がバグっている。

「ソウジ、今日は何する?」

「おや、こんな朝からどうしました?」

 背後から抱き着かれて、体重を結構な割合で預けられながら、姫様がゆらゆらと揺れていた。

 床に座って本を読んでいた俺の上半身も、彼女の動きに合わせてゆらゆらと。

 寝起きの気怠い身体を、読書と共に徐々に鳴らしていく至福の時間が―――二度寝の自由と共に、すっかり奪われてしまっている。まぁ、この世界の読み物はなかなか新鮮だ。特に童話。まだブラッシュアップされていないからか、子供に読み聞かせるには明らかに不釣り合いなほどダーク、かつ残虐な描写も多い。こんなの教育に悪いわよ、なんて思うが、俺にとっては興味深く、面白い。この世界の、ある種の資料とも言える。こういった形で異世界の情報を収集するのもアリかもな、なんて。書物、書物か―――俺が何か良いことを閃きそうになった時、背後から抱き着いている姫様がぽそぽそと小声を発し、耳元で囁いてきた。

「今日は午後からパーティーがあるの。お父様もお母様も出席なさるから、私も出ないと」

「大変ですねぇ、王族というのは」

「他人事だと思ってぇ……!」

「他人事ですからね」

「言ったわねぇ、ソウジ~!」

「ぐえぇ」

 姫様が抱き着いた姿勢のまま、俺の首を()めてきた。

 これがなかなかどうして力が強い。

 いや、加減してくれているのは分かるが、続けていれば間違いなく意識を失う程度の絞めつけだ。

 顔のすぐ横に見える金髪ドリルロールをぼんやり眺めているだけで、いつの間にかあの世に旅立ってしまうかもしれないというのも、ぞっとしないな。

 惜しむらくは、これがガキによるものだということだ。

 きっと妙齢の女性であったなら、俺は今頃、天に向けて感謝をしているところなのに。

 一言で言えば、おっぱいである。おっぱいだ。

 おっぱいを、こう、当ててんのよとかされてみたい。

 現役のキモ童貞からこの世界に飛ばされた身としては、今後も機会を窺っていく所存である。

 この世界ではガキンチョの身体だから、俺は成長を待つ必要がある。

 そうしたらいずれ、めくるめくオトナな世界へと、いざ―――あっ、旅立つ旅立つ。

 違うところへ旅立っちゃう。先立つ不孝をお許しください―――。

「絞まってます絞まってます」

「絞めてるのよ!」

「はしたないですぞ」

「はしたな……っ!? そ、そうかしら………っていうか大臣の口調はやめなさいよ! 鳥肌が立つ!」

「あははは、すみません」

 ようやく拘束を解いてくれた姫様の恩情に感謝しつつ、ふと振り向いて笑いかけたところ、その至近距離に姫様の顔があった。

「………!」

 ぴとっ、と鼻先に何かくっつく感覚。

 目の前には驚く姫様の顔。もちろん至近距離なのでぼやけて見える。

 鼻と鼻がくっつき、互いに寄り目になって見つめ合う。それでもまだぼやけた視界だが、互いに無様な顔を晒しているのは確かだった。

 なんとも微笑ましい触れ合いだな。

 きっと互いに変顔をさらしているのは何となく分かっているのだろうが、ぼやけているのでそれもよく確認できない。

 姫様のような整った顔でも、寄り目になると一気に不審者感が出て面白いな。カメラとかスマホとか、あれば良かったのに。

「……っ、ご、ごめんなさいっ……!」

「いえいえ」

 慌てて離した顔を真っ赤に染める姫様が微笑ましい。

 熱くなったのだろう頬に手を当てて、全力で戸惑っている。

 ……ところで、この世界における俺の肉体年齢と、そう変わらぬと見える姫様だが、既に恥じらい方は一人前だ。

 この世界のガキはマセてるよな………。

 エレンも、俺の水浴びをこっそり覗いていたことがあった。

 思えばアレも、アルがエレンであること―――アルが実はエレンという名前で、本当の性別は女であること―――が分かったきっかけだったのだが。

「…………何を、考えてるの?」

「ん」

 ふと真横から顔を覗き込まれたので、俺は何となく目を逸らすようにぼんやりと上を見上げた。

「傭兵団にいた時は、そういえばこんなに穏やかな日々は過ごしていなかったように思いまして」

「………」

「元気にしてるかなぁ、みんな………おや姫様、どうされました?」

 はっとしたように、姫様の顔が強張っていた。

「………ソウジも、そのうち帰っちゃうのよね………」

 姫様が呟いたのはそんな内容。そりゃ帰りますとも。というか、帰してくれるんでしょうね?

 おうちに帰して。

「そりゃあそうです。帰してくれないと困ります。これでも傭兵団では、ワイルドな料理を担当させていただいております、コックでもあるわけですからね」

「ソウジの料理、食べたことないわ」

「あの厨房を借りろと? んで食材を勝手に使えと? 勘弁してくださいよ、バレたら俺なんか簡単に殺されちゃいそうです」

「そんなことにはならないわ、私がそうさせないもの」

「果たしてそうでしょうかねぇ。俺もそうだし、姫様だって、まだ子供ですしねぇ。言い訳をしたって、きっと信じてもらえない。尻の百叩きや二百叩きじゃ済みませんよ」

「どうして信用してくれないの!」

「そういうのは、いっぱしの実力を身に着けてから言うもんですよ。まったく姫はお転婆なんだから。普段から周りの点数稼いでおいてくださいよ」

「うぐっ……! ソウジ、段々と遠慮のない物言いになってきたわね……!」

「おや、これは行き過ぎた発言でした、とんだ失礼を」

「だけど嫌いじゃないわ! ―――どう、今のちょっとお姫様っぽいでしょう!?」

「アハハハ。その調子です、姫」

 姫様との関係は相変わらず………だが、どこか打ち解けて、今までよりももっと会話は弾むようになっていたのだった。

 居心地は悪くない………とか感じたところで、

「あははは………はっ!?」

 はっとする。

「きゃっ!? ど、どうしたのソウジ……?」

「……いえ、なんでも」

 いや帰るんだよ俺は。帰らなきゃなんだよ。意志を強く持てよ俺!

「その………ごめんなさい。ソウジが親しくしてくれるから、私もつい言葉遣いが―――」

「何も問題ないですよ。ちょっと考え事をしていただけです」

「そう……?」

「ええ。で、何のお話でしたっけ―――」

 姫様の、捨てられた子犬か子猫みたいな目を向けられて、俺はまた彼女の話相手に戻るのだった。

結構ちゃらんぽらん

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