垣間見える、姫様の
『―――イヤ! イヤったら絶対イヤ!』
『姫、分別のないことを仰いますな、将来は夫となられるかもしれないお方なのです、一目だけでも』
『イヤよ! 絶対に、イ・ヤっ!』
………。
白熱してますね。
現在、壁に耳を当てて盗聴していたところ、聞こえてきたのはそんな会話だった。
俺が姫様と遊ぶ部屋、兼、俺の寝室で、俺は壁に耳を当てて、隣室の会話を盗み聞きしていたのだ。
隣室にいるのは姫様と、会話の相手である大臣の二人だろう。
絶賛口論中。とはいえ、絶対に言うことなんか聞くもんかという子供と、そんな聞きわけの悪い子供の対応に苦慮するオッサンといった会話だった。
「……アレ、止めなくていいんじゃないですか」
「問題ない」
「そうですか……?」
ここ最近は姫様の次にずっと一緒にいる衛兵の青年に話を聞くも、彼はかぶりを振って短く答えるだけだ。ちなみにそんな彼だが、俺がこうして隣室の盗聴をしようとも、何も言ってこない。
俺と接したここ一週間で、魔法ができるだけの、ただの害のない子供だと、こちらを認識してくれている。
『最悪! どうしていつもいつも、私の意見って無視されるの! 私のこと、人間扱いしてよ!』
『しておりますとも。ですが姫、今は戦時下なのですぞ。個人が好き勝手言っていられる状況ではなくなりつつあるのです』
『そんなの知らない! 戦争なんて、お父様もお爺様も、貴方達も、大人達が楽しんでるだけのものでしょう!』
『我々だって好きで戦争をしているわけではないのです。姫、どうか勝手は―――』
『大臣のわからずや! トーヘンボク!』
『なっ……! 姫、お口が悪いですぞ!』
『大臣の、大臣のっ……! ××××!』
『んがっ……!?』
………。
だからお隣、白熱してるってば。
「……隣、だいぶ白熱してるみたいですけど」
とりあえず、大臣と会話する中でFワードが飛び出てくるくらいには熱くなっている姫様の声に危機感を感じ、衛兵さんにそう進言してみる。
「姫様、もう大分カッカしてるみたいですけど」
「いつものことだ」
「そうですか………」
どうやらいつものことらしい。
お転婆姫の隠れた一面、ってわけでもないな。お転婆だし。あの胡散臭い大臣の言うことには従わなさそう。
でも、彼女、接してみると普通というか、ただの、心優しい女の子って感じなんだけどな。
姫として育てられたから、生来のお転婆なところはあれど、立ち居振る舞いは非常に堂に入ったもので、洗練されていて美しい。外面だけなら、どこに出しても恥ずかしくない姫様だろうに。
「エレンとは大違いだな」
エレンもこの世界のガキにしては大人びているが、傭兵団に染まりかけているので、遠慮のない物言いをするところがあるし。まぁ、それは俺も同じだけど。俺もすっかり、傭兵団に染まっちまっているけど。
現に、傭兵団の荒くれ達が使う言葉遣いに慣れ過ぎて、一週間ほど前の謁見の間では、王様の前で丁寧な喋り方をするオヤジを見て衝撃を受けたくらいだ。
これが普通、と考えれば、俺の属している集団はかなりのアウトローって感じだよな。
『―――もういい!』
『姫様っ―――』
おっと、口論も佳境を過ぎ、終わりに。
姫様が大臣の制止も聞かずに隣室の扉をバァンッと開けて、部屋を出て行く音がした。




