ダメになっちゃう
「ソウジ、美味しい?」
「美味しい、です………」
「そうかそうか、私がもっと食べさせてあげよう」
「ケプッ……あ、ありが、とう、ございます………」
「もしや、もうお腹いっぱい……?」
「恐れながら。自分はひとより食べる方でございますが、今回は流石に食べ過ぎました。こちらの食事は、どれも本当に美味しいものばかりで―――」
俺に食事を自ら手で持ったスプーンで食べさせてくれた姫様は、流石の俺も満腹になり、反応が鈍ってきたところで飽きたのか、給仕に片付けを命じていた。
「らめぇぇぇぇ、ダメになっちゃぅぅぅぅぅ………」
「大丈夫か……?」
姫様が部屋にいない間、どこかで見聞きしたような台詞を喋ってみたら、衛兵の男性に本気で心配された。
ネタが通じない……のもあるだろうが、ダメになっちゃう、なんて台詞を、俺がそれはそれは憔悴した様子で呟いてしまったからというのもあるだろう。
うん。まぁ。
そりゃ疲れるよね、って話だ。
そう理解してもらいたい。是非とも。
食べ物にも困らないし入浴も排泄もできて困らないが、城の中から出してはもらえない。
このままだと徐々に心身が弱っていく気がして、どうにも勝手のよろしくない生活だ。
華やか………なんだろうか。
何不自由ない、良い生活、なのだろうか。
しかしそれは、生きるのに困らないだけで、あるいはそれは、とても不自由な生活では―――。
王族がもし、このような生活ばかり強いられているのだとしたら………それはそれで、本気で心配になってしまう。
姫様も、今の俺みたいな生活をしているのか。あるいは、していた時期があるのか。
「姫様って、お友達はいるので?」
「いらっしゃることは、いらっしゃるかな。滅多におみえにならないが」
「そうなんですか……」
まぁ、今の俺に姫様の心配までしている余裕があるのかというと、それも怪しいか。
ひとまず我が身の心配だな。
「軟禁生活はや四日………仲間達は無事なんでしょうか………」
「お前『軟禁』なんて言っちゃだめだぞ。お姫様の前で」
「流石にそこは俺も弁えていますよ。でも、ねえ、じゃあ俺、いつになったらここを出られるんですか?」
「こっちに聞かれても」
「………ですよね」
ですよねェ!
でも、じゃあ、おいアンタ!
いつになったら俺はここを出られるんだよォ!
アンタさあ、俺が脱走しようとしたら止めるじゃんよォ!
今もほら、ベランダへ通じる窓を開けようとしたら、服の裾を掴んでさァ!
「……俺のこと、逃がしてくれませんか?」
「それはできんなぁ」
「なぜッスか……」
「それが仕事だから」
「なるほどッス……」
まぁ、衛兵ってそういう職業だもんな。
主の命令あらば、来る者を拒み、去る者を追う―――と。
諦めて、俺は部屋の床に座り込む。
「それに、あんまオススメせんよ、脱走は」
「え?」
「城に出入りする人間は、誰であれ上の許可が要る。そうでなければひっ捕らえられたり、追われる身になったりするな」
「ひええ……」
それにしては厳重過ぎる気もするが………。
「大人しく、姫様に飽きられるのを待つんだな。それとも数ヶ月か一年は先になるが、忙しい王様への謁見でも申し込んでみるか?」
「どちらにしろ俺がこのままっていうのは、決まっているようなもんじゃないですか」
「だから諦めろと言うに」
「そんなぁ」
なんてことだ。
姫様に説教でもするか。
そんな風に俺が幼い姫様をどう説き伏せようかと悩んでいたところへ。
「―――ソウジ、今日は何の話をしてくれるの!?」
「今日はですね、じゃあとある世界の、とある飲んだくれの男の話なんかはどうでしょう」
バァン、と部屋の扉を開けてウキウキしながら入ってくる姫様に、一瞬で姿勢を正して応じる俺だった。




