拝啓、義父さん、義母さん
拝啓、心の中からご挨拶申し上げます、義父さん、義母さん。
俺は今、異世界にいます。
異世界では、現代日本で味わえないような様々な経験をしました。
異世界に来たら吐き気に襲われ、滝を見つけたら竜の翼の起こす風に煽られて谷に落下し、気付いたらならず者達の一員になっていたところから、俺の異世界ライフはスタートしました。
ならず者達……傭兵団の一員として、この世界で生きる術を身に着けながら、飛躍的に実力を伸ばし、何だかとんでもない力を身につけつつあるようですが………そんな自分が実は「デキる子だった!?」みたいな驚きと喜びを一瞬でも味わった後で、しかし、結局は我に返ってしまいます。
自分は何をしているのか。こんなことをしていて、本当に元の世界に帰れるのか。
そう、俺の願いはたった一つです。
元の世界に帰して。
帰りたい。
義父さん、義母さん、二人の顔を見たいです。一緒に食卓を囲みたい。安心させてあげたいし、俺もまた安心したい。
だから、ね?
俺はこんなお城で、姫様を相手にご機嫌取りをしている場合じゃあないんですよ。
早く力をつけて、この世の中を旅して、元の世界に帰る術をですね、例えば高名な魔法の権威、山の奥に暮らす長寿命の魔法使いとかを尋ねてですね、異世界へのゲートを繋げてもらったりね、しなくちゃいけないんですよ。本当はね。
でもできない。
なぜか。
今、俺は姫様を相手に接待しているからです。
見てください、彼女、無邪気な顔していますけれども、例えばこの世界のボードゲーム(これがなかなか面白いんですね。帰ったら教えてあげます)なんかをやると、えげつない手を平気で使ってくるんですよ。何というか、戦略がね、軍師っぽいと言うか、勝つことにのみ焦点を当てた戦法でね、驚くんですよ。
この子供、才能があるぞッ!? みたいなね。大人って、子供が虫の羽を千切ったり、そういうふとした残酷さを見て何かを思ったりすることはあるんでしょうけれども、それに似た何かをね、俺も感じる今日この頃であります。
ああ、このまま俺、緩やかな年月を過ごすのかな、なんて、死んだ心が思うわけですよ。
真綿で首を絞められる感覚と言いますか、緩やかにね、自分がダメな方に行っているという感覚がね、あるわけですよ。いや、それすら、もう遠のきつつある。
感覚が、脳が、単純な信号しか受け付けなくなっていて、鈍麻する神経が、夢見心地にさせるのでしょうか。
俺は、今―――。
帰りたい―――
俺は今、微睡みの中で、口に何かを含まされ―――。
帰りたい―――
甘い、しょっぱい、酸っぱい、あっ、今度はフルーティ―――。
帰りたい―――
何で、俺は今、こんな状況に。
口の中に放り込まれる食事は、さながらペットを甘やかすかのように―――。




