やべぇ俺、今城に軟禁さr―――
衛兵の一人と会話している。衛兵は十代後半くらいの青年だった。
ちなみに俺は彼の名前を知らないが、彼からは気軽に「ソウジ」と呼び捨てにされていた。こちらが子供だし身長も足りていないので見下ろされる格好だが、見下されているといった印象は抱かない。言葉の端々から、彼の持ち前のフランクさが漂っている。弟でも相手にするような気持ちでこちらに接しているのだろうか。
―――で、会話の流れ、というものだろうか。時折、驚くべき方向に話が進む。
「戦闘技術は我流か?」
「いえ、うちには師匠格ばっかりですからね。色々教えてもらいました」
「城でちょっと学んでいったらどうだ。王国の指南役に」
「………………へ?」
いきなりの話だったもんだから、面食らってしまった。
俺みたいなゴロツキ一味の下っ端が、栄えある王国の何かの指南役に教えを請う……?
一体何の冗談だ。
命知らずにもほどがある。
というか俺はさっさと帰りたいのに。
まるで、しばらくの滞在が前提みたいな提案が、なんでそんなにアッサリ出るん―――。
「あ、そういえば、あの………」
俺は、確認するのも恐ろしいことを確認することにした。
「俺の仲間は………」
「ん? ああ、お前んとこの傭兵団?」
「そうッス」
彼に素早く頷きを返す。早く喋ってくれと願いながら。
すると彼は何かを思い出すように、首を傾けて斜め上を見上げる仕草を見せた。
「んー……確か、昨日? 衛兵長がムジークとか何とかって人を見送るみたいな話があったような……?」
「うそォ!?」
えっ、ムジークってオヤジのことじゃないですか。それ、我らが傭兵団のカシラじゃないですか、ヤダー!
俺をこの地に引っ張って来た張本人! なんでいつの間にか城を出てるんだ!?
待て―――いや、まず状況を整理しよう。
俺達がダンジョン攻略からこの地に戻って来て、王様に謁見したのがその翌々日。その時は、後で褒美を取らす、なんて言われて―――んで同日、俺は姫様に拉致されて、城内に軟禁される。
して、軟禁生活もはや三日目、今に至る―――と。
うん。
うん………?
ちなみに軟禁されている間、同じ城の中に滞在しているはずのオヤジ達とは、俺は一度も会っていない。一時的にあてがわれた自室にも戻っていない。
あれっ、俺の頭の中にあるエレンの表情は、別れ際のあの絶望したような表情から更新されていないな?
……と、異変に気付いたのが軟禁生活二日目のこと。
今日になって、俺はようやく事態の深刻さを悟る。
部屋の隅には、急遽、俺が使うために用意された寝床―――組み立て式のベッドなんかがある。姫様の遊び部屋が、今の俺の寝室でもあった。
いよいよ、って感じだ。
危機感を覚えるのだ。
やべぇ、俺今、鳥かごの中じゃん、と。
「あっ、それでですね、俺っていつ頃帰れるかとか………へへっ、分かったり………しますかね? というか帰してもらえますかね。へへっ」
我ながら随分と卑屈な笑いになっているが、表情が引きつるのも身体が強張るのも許してほしい。
だって俺、よく考えたら王族のペットになりつつある。
このまま王城の中で何不自由なく暮らす愛玩用に―――あれっ、それも悪くない? 生きるか死ぬかが日常の生活と比べれば上等な部類?
いや待て落ち着け俺。俺には目標があっただろう。元の世界に帰るという野望があったはずだろう―――。
「ちょっと野暮用が」
すっ、と一歩を踏み出して部屋を出て行こうとする俺の行く手を、入り口に佇む彼が、地面に突き立てた槍を傾けて遮る。
「………なんで通せんぼするんです?」
「帰してもらうって言ってもなぁ。お前、姫様に気に入られちゃったじゃん」
「ンッ!?」
「じゃあお前、帰れねぇよ」
「ンンッ!?!?」
あれれ? おかしいぞォ~?
姫様に気に入られると、どうして帰れなくなるのカナ???
「ま、待ってください、あのですね―――」
俺は常識やら体裁やらを説きそうになるが、ここは異世界、しかも相手は姫様本人じゃないので、意味もない。
姫様は今トイレ中だ。彼女が席を外したのをいいことに、俺はこの衛兵のアンチャンと話し込んでいるのだった。
「まぁ、気長に待てばいいだろ。お前の仲間が本当にお前を必要としてるんなら、すぐに戻って来るさ」
「……あらヤダ、」
俺は、すぅっ、と息を吸って。
「他力本願~~~ッ!」
混乱と同様の余り、オネエみたいな声で叫んでしまうのだった。




