ドナドナ
「―――して、その方らは辛くもダンジョンを踏破したとな!?」
「仰せの通りにございます」
「なるほど面構えは誠のもののふなれば、申した通りの結果を十全に果たしてくれたものよ。褒めてつかわす!」
「光栄にございます」
すげぇ。あのオヤジがいつも通りの荒っぽい口調ではなく、それどころか敬語まで使ってら。
相手はどこか台詞も棒読みな、俺やエレンと同年代くらいの姫様なのに、流石にオヤジもこうした場では弁えたもんだよな。
ちなみに今、俺達は謁見の間にいる。王都近辺のとあるダンジョンが活発化し、それを踏破して戻って来てから翌々日のことである。
この場ではオヤジだけが頭を上げて話すことを許されたので、俺達他のメンバーは、片膝をついて跪いている。
視界いっぱいに広がるフカフカの絨毯。手触り最高、見事な模様。高級そうだ。
やはり嫌と言うほど思い知らされるな。
身分差ってやつを。
思うに、あの子供……いや姫様も、幼い頃からこうした環境に身を置いているから、暗記させられたであろう台詞を喋っていることはともかく、立ち居振る舞いについては非常に上品だ。
ガキのくせにな。
「(ソウジ、ソウジっ!)」
「ん?」
斜め後ろからエレンの小さな呼び声がしたので振り返ると、こちらを見て焦った表情をしていた。
「その方!」
「!」
とにもかくにも我に返った俺は、姫様の声がしたので慌てて正面を見た。
見えたのは、耳元から細いドリルロールみたいな髪を垂らした、金髪のお姫さまだ。いかにもな感じの。
幼いが、やはり俺やエレンと同年代だと思われる。
「そう、そうだ、私と同い年くらいの、そこの!」
「じ……自分でありますか?」
「そう!」
「………」
やはり元はサラリーマン、つまり平民でしかない俺は、こういう場でどういう話題を提供したら良いのか皆目見当がつかない。
「………何でございましょう」
それに、(やっべ、ぼうっとしてた、話聞いてなかった……!)と冷や汗もかきつつ。
姫様と言葉を交わすのに頭を上げてしまっていることに気付いて、俺はさらに焦る。
今さら下げるのもおかしいか、やべぇな。視界に映るオヤジの表情は、こちらを見ながらも特に何を示すでもない無表情だった。
いや………意外と雰囲気は緩いのか? 顔を上げたくらいで打ち首にされなくてほっとしている。
「話を聞くに、その方はその歳で類稀なる使い手であると!」
「恐れ入ります………」
ペコリ、と恐縮する体で頭を下げることに成功。とりあえずこの方が礼儀正しいのではないかと浅慮を働かせてみる。
このまま嵐を待つつもりで(この謁見の間にいる、他の大人達の顔が怖くて見れない)、俺はじっと次の言葉を待った。
「見せてみよ!」
「はっ?」
素で驚きの声が漏れた。
「父上、よろしいですか!?」
「………うむ」
金髪ドリルロールのお姫様の言葉に、王様はゆっくりと頷いた。
「どれ、後ほど庭の方に来るがよい!」
「えっ………」
あれよあれよという間に「後で一緒に遊ぼうね!」みたいな約束を取り付けられ、
「これにて謁見を終了する。褒美は後程賜わす、階下にて待て」
「「「「「はっ!」」」」」
「はっ?」
とりあえず、俺以外は普通に跪き、そのまま返事をしていた。
俺だけが混乱中。
何の時間だったんだ、今のは………。
何が起きているのか分からないまま。
「あの」
「ソウジ、と言ったな! 来るがよい!」
「は、はぁ………」
俺は鎧を身に着けた衛兵さん達に周りを囲まれ、無言の圧のもと半強制的に連行の流れ。
別に手錠をはめられたとか、引っ張られたとかではないが、鎧のおにいさんやおじさん達が、まるで俺の周りの空間ごと運ぼうとしているかのように。
鎧にぶつかるとガシャンッとか大きな音が鳴りそうだし、そもそも気後れしてしまって、俺はそのまま流されるように連れられて行く。
「えっ、ちょ、ちょっと」
とりあえず解散となったので、謁見の間を出て行くオヤジ達に混じるエレンが、戸惑ったようにこちらに手を伸ばしかけていた。
とはいえ出口が違うので、ここで離ればなれ。
「そ、ソウ―――」
出口の扉が閉じられ、こちらを呼びかけたエレンも、謁見の間も見えなくなった。




