大仕事を終えて
「……ソウジ?」
部屋の扉をカチャリ……と静かに開けて、プラチナブロンドの髪と金色の目が印象的な、目の覚めるような美少女が入って来る。
「エレンか」
「えと………大丈夫?」
「ん、全く問題ないよ」
「そうなんだ」
気疲れはしていたのだろう、俺は何となくベッドに身を預けていたい気持ちでありながらも、よっこらせっと身を起こす。
どこか気怠い気がするのは、体力的なものなのか、それとも精神的なものなのか……あるいは両方か。
これが【魔装体術】の反動なら、もっと試して、自分の限界を見極めておかなければならないが。
「あ、起きなくていいよ」
ベッドから降りようとする前に、エレンが来てベッドの縁に座ってしまった。
「朝食、もう終わっちゃったよ」
「ああ、そうみたいだな。給仕の人が後で持って来てくれるって」
どうやら今朝の朝食には俺の起床が間に合わなかったらしく、俺は先程、メイドさんから「こちらの部屋でお召し上がりになりますか?」とのありがたい申し出に喜んで返事をしたばかりだ。もうすぐ朝食が運ばれてくるだろう。
「ソウジ……頑張ったもんね。すごかったよ」
「ありがとう……?」
エレンが、どこかモジモジとしながら、それでも俺の目を見て正面から褒めてきた。
俺としてはどこかくすぐったい。褒められ慣れていないのもあるし、相手がエレンのような子供だからというのもある。しかも俺自身、異世界から転移してきた元サラリーマンで、今は見た目が子供だからこそ、何とも精神が良い具合にぐちゃぐちゃになるのだ。果たして俺のアイデンティティはどこに。
「エレンも、すごかったよ。あの土壇場で、俺の意図を察して、しかもより効果的な戦術にするべくフォローしてくれたんだからな」
「そっ………えへへ………う、ウチだってやる時はやるんだぞ!」
「ああ、頼もしいよ」
「………っ」
謙遜しようとして失敗し破顔して、しかしニヤけた名残りがある表情で怒るエレン。今度は照れている。まったく感情が豊かで羨ましいな。
「ふぅ~」
エレンの顔を見たら、何だか安心してしまった。
あれから―――そう、俺達は王都付近のダンジョンを攻略し、昨日、王都に帰還して来たばかり。
皆、昨夜は疲れから爆睡したのだろうが、寝坊して朝食に間に合わなかったのは俺だけだし。
新技を習得し、俺自身が戦術の目立った変化を遂げたこともあって、色々と考えることもあった。
ボフッ、とベッドに身を預ける。あ、気持ちいい……このまま二度寝してしまえそうだが、見上げた天井に虫食いのように現れた人の頭のシルエット。エレンの顔が、俺に二度寝を許さない。
「大丈夫? ソウジ、実はかなり無理してたんじゃない……?」
「うーん………自分ではそんなつもりないんだけどな………」
気遣わし気なエレンに尋ねられて、俺は改めて自己の内側を探る。
体力的に、魔力的にも問題はない。
全身を著しい倦怠感が襲うとか、節々が痛いとか、そんなこともない。
では何なのかと言われれば、難しいが。
やはり、気疲れという線が濃厚かな。
「もう少し休めば本調子に戻ると思う」
「……そ?」
大丈夫だと伝えたのだが、エレンはベッドの縁から腰を上げる気配はない。
「………………………………ウチが食べさせてあげよっか」
たっぷり間を溜めてエレンが発したのは、そんな一言だった。
肩口まで伸びたプラチナブロンドの髪を手でいじいじと弄りながら、頬を染めている。
「いやいいって。そこまで疲れてないよ」
「は、はぁっ!? 遠慮すんなし!」
焦ったように怒られても。
「遠慮したわけじゃない」
「む~っ………」
「なんだよ」
とにかく不満そうなエレン。子供におもちゃか何かをねだられる親の気分ってこんな感じなんだろうか、と薄ら寒い想像をしてしまうのも、本当は俺の心が弱っている証拠だろうか。
あるいはエレンも、単に暇なだけかもしれないしな。
今日はゆっくり休んで、明日、王様の方から直々に俺達は褒美を賜るらしいし。
「………分かった。じゃあ食べ終わるまで、側にいてくれるか?」
「~~っ!? わ、分かったっ!!」
目を見開き、ぶんぶんと頷くエレンの様子が微笑ましく、俺の顔にも自然と笑みがこぼれてしまう。
………ほっとした。本当に。
やはり俺は、一人でいるとあれこれ余計なことを考えて気分が沈んでしまう性格のようだ。
酔っ払った時だけにしたいもんだけどな、こんなのは。
いや、楽しく酔えるに越したことはないんだけれども。
というか、この世界で酒が飲めるようになるのは割と早い、つまり成人となる年齢は低いようだが………しかし、無法地帯でガキが飲酒したところで、それを取り締まったり問題視したりする者がどれだけいるか、って話だよな。
つくづく、法治国家の子供は守られていたんだなぁ、と思う。
「……ソウジ?」
気付けば、心配そうに顔を覗き込んでくるエレンの顔が目の前にあった。どうやら考え込んでしまっていたらしい。
「そうだ、エレン、俺が眠っていた時のこと、教えてくれよ」
「――いいよ! あのね、オヤジ達が食堂に集まって、それで貴族の一人がね―――」
俺は食事が部屋に運ばれてくるまでの間、エレンと話し込んで時間を潰したのだった。




