王都付近ダンジョン・最下層・最奥
遥か前方に、立ち止まったオヤジの背中が見える。
その背中も小さく見えるのは比喩ではなく、実際に、相対しているものが物理的に巨大であるためだ。
明らかに「この奥で何かが待ち構えていますよ」とでも言いたげな、重厚な感じのする巨大な石造りの扉。
誰が岩山から切り出して整えたのか分からないが、それはそれは見事な造りをしている。職人の技が光る一品………と言っても、この世界には魔法があるから分からないだろうなぁ。
魔法は知れば知るほど万能だと思わせる何かがあるから、こんな扉を“召喚”する魔法的な仕組みがあったとして、俺はもう驚かない……かもしれない。
「着いたぜ」
「……そうみたいッスね」
オヤジに続いて到着していたニールのアニキが、追って来た俺にニヤリと笑いかける。
「……っひゃー。デケェ………」
「だろ」
ニールニキは呆気にとられるこちらの反応を楽しんでいるようだ。
「やっと着いたかぁ」
「気を引き締めろ」
モッチがふぅと一息吐いて、ドラは俺達に油断するなと告げる。
「すっご………」
ポカンとしながらエレンは言って、目の前の巨大な扉に俺と同じような姿勢で見入っていた。
「テメェら、装備の確認だ。結び目の緩み一つ無ェようにしっかりチェックしやがれ」
「「「「「了解!」」」」」
ダンジョン最下層、最奥にて、この巨大な扉の奥に待ち構えるボス―――いわゆるダンジョンコア・キーパーと呼ばれるもの。
ダンジョンの守り人であり、クリア目前に控えた番人であり、ダンジョンの主そのもの。
「こんな巨大な扉………一体どんな来客を想定してるんでしょうね………」
「ん? まぁ確かに。面白れぇこと考えるな、ソウジは」
俺はふとした疑問を呟いただけなのだが、ニールニキは感心したように微笑んだ。
というのも、人間を誘い込むだけの構造なら、こんな巨大な扉はそもそも必要性が無いと言えるだろう。
相手を威圧するためなら成功していると言えるが、しかしここまで来てデカ扉の威圧ごときで引き返すヤツがいるのかは甚だ疑問だ。
………あるいは、ダンジョン内を巨大な何かが行き来するゆえ、とかいう理由なら分からんでもないが。
「ソウジ、アル、準備はいいか」
「へい!」
「ああ!」
「よーし………オヤジ! 良いってよ!」
俺達の確認を済ませたニールニキが、前方のオヤジに声を張る。
こちらを振り返っていたオヤジは頷きもせず扉に向き直り、この大扉に手で触れた。
「………―――」
何かブツブツと呪文を唱え、そして―――
ズズ……
大扉が、音を立てて開く。
一体どういう仕組みで開かれたのか分からないが、とにかく神秘的な大扉の向こうに待ち構えていたのは、これまた薄暗い中で、部屋の奥行きすら見通せないほど広い、大部屋だった。
「「「「「――!?」」」」」
―――そして、それを見た時、オヤジ以外の、ニールニキ以下五名の俺達は、皆が一瞬だけ身体を強張らせた。
いた。
待ち構えていた。
ダンジョンを踏破せんとする冒険者を討つ、このダンジョンの主が。
真っ黒な毛に覆われた、まるでおとぎ話の中の雪男みたいに毛深い巨人が。
『グオオオオオオォォォォォォォォォ!!!』
仮称:『黒毛の巨人』とでもしようか。
黒毛の巨人は、壁をビリビリと震わせるほど大きく咆哮し―――。
「やるぞォ、テメェらッッ!!!」
「「「「「応ッ!!!」」」」」
負けじと叫ぶオヤジの号令で金縛りが解け、俺達は戦闘態勢に移行した。




