継戦の初歩
ダンジョン下層もやけに長いと思ったら、どうやらいつの間にか、“最下層”とやらに来ていたようで。
「魔物も強くなっているはずだが―――」
「全く感じねェなぁ!」
相変わらず無双の強さを見せるオヤジは、詠唱を短縮するか無詠唱まで極めた魔法の一種類を使用しつつ、類まれな格闘術などの戦闘スキルで最前衛を張っている。
それに続くニールのアニキも、オヤジに及ばないながらそつのない戦い方で、剛腕のモッチは豪快に魔物を吹っ飛ばし(その振る舞いの派手さのためか、オヤジの次に魔物のヘイトを買っている)、超絶技巧派のドラは向かって来る敵と、あるいは隙を見せた敵から即座に斬り捨てる効率的な戦い方をしていた。
およそ流石と言った個々人の能力もさることながら、その連携また熟練のそれである。全体として見れば、実に危なげない動きをしている。
この中では新参でありガキんちょでもある俺とエレンだが、こちらはこちらでその辺の大人にはまず負けないだけの力をつけている。滅多なことでは後れを取らない。
「ウチだって―――負けないんだから!」
ちょうど、このダンジョンで新たな戦闘スタイルを見つけた俺に触発されたかのように、エレンが奮い立っていた。
彼女も魔力的には心配ないが、体力的にはやや心配が残る。本気の出し過ぎでバテないよう、ペース配分には気を付けさせなければならないだろう。そういえばこの辺のことは、エレンとも話し合ったことがなかった。
例えば………そうだな、持久走の指導でもするとなれば、果たしてどのようなことを言えば良いかということを頭に思い浮かべる。
俺には学校の教員をしていた記憶はないが、エレンに魔法などを教えていた手前、部活の後輩にアドバイスをする時と何ら変わりない感覚でも問題ないことは分かっている。
「エレン、魔法を使うのはいいけど、戦闘は多少なりとも意識がすり減るもんだ、あんまり気負い過ぎるな!」
「分かってるっ――!」
分かってる、と言いつつも攻撃の手がやや苛烈になっているのが気がかりだ。
対抗意識を燃やすことそのものは悪いことじゃないが、やはり今は状況が状況だ、しっかり見ておかなければ。
偉そうなことを言ったって、今の俺は新技に慣れるのにも忙しくて、中々難しい集中の塩梅なんだけどな。
戦闘そのものには長かったり短かったり、魔物が襲ってこないタイミングもあるので、そこを活かすことに―――。
「ソウジはなんで水の魔法ばっかり使ってるの?」
「いや、土の魔法も使ってるだろ?」
「でも水が一番多い」
「うーん、【ウォーターカッター】が使いやすいからってのが一番大きいんだけど………いざとなれば水浸しの床ごと凍らせて、敵の足止めが狙えるからな」
「………なるほどね!?」
目を輝かせてエレンが見てくる。なんてことはない「保険」なのだが、こういうリアクションをされると小さい子を騙しているようで気が引ける。
しかし、知識は知識、知恵は知恵だ。これを教えることで、エレンの生存確率が少しでも上がるのなら。
戦闘では戦術の幅が広いに越したことはないからな。
「おいお前ら、次が来るぞ!」
「「「「了解!」」」」
先頭のオヤジが何かを見つけ、それをニールのアニキが大声で後続に伝達。いつもの接敵パターンを受けて、俺達はもう何十回目になるか分からない、戦闘態勢に移行するのだった。




