作業のように
ダンジョンも、もう下層という話らしいが………。
やけに長く感じる。
「ソウジ、どうしたの?」
プラチナブロンドの髪の美少女に覗き込まれて一瞬だけ視界が明るくなる。
心配そうな表情はやめてほしい。
……そうさせてしまうほど、俺も顔に出てしまっていただろうか。
「どうもしないよ」
「うそ。なんか浮かない顔してるもん」
「………そうかな」
「そうだよ」
どうやら嘘は通じないらしく、エレンは何か確信があるようにしつこく食い下がった。
まぁ確かに、これではよくないなと思う。
―――泣いても喚いても、それで元の世界に帰れるようなら苦労はしない。
今はもうダンジョン下層なのだ。常に自分の死、あるいは仲間の死と隣り合わせ。
ここで死ねば、元の世界に帰るどころではなくなる。
目の前のことに集中しなければ。
「悩み事……? があるなら、後で教えてね」
俺の表情を確認したエレンは、とりあえず周囲の警戒に意識を戻したようだった。
前方では、ニールもモッチもドラも、なぜかニヤニヤしながら、あるいは興味深そうに、エレンと俺を交互に見回していた。
「……なんだよ?」
「「「いや?」」」
半ギレのエレンが問うと、全員揃って顔を逸らす。「なに見とんじゃいワレ」みたいな感じだろうが、見守るアニキ達はどことなく微笑ましそうだ。俺とエレンのやり取りに何か微笑ましい要素でも見つけたか。
というかエレンもああいう態度、少し様になってきてる気がするな。まだ俺と同じくらいのガキなのに、早くも「あねさん気質」が身についてきているというか………。
「チッ。【ウォーターカッター】」
後方から迫っていた数体の魔物を、俺は高圧の水鉄砲の魔法でまとめて薙ぎ払う。
ぱっくりと綺麗な断面を残し、ゴロゴロと転がり息絶える魔物達。
「【氷の槍】」
足元から生えた氷のトゲに貫かれて動かなくなる魔物達。
「【石の槍】」
こちらも同様、足元から生えた石のトゲに貫かれて動かなくなる魔物達。
基本的に、俺の作業はこういったものだ。
考え事の最中でさえこうなので、少しずつ慣れ始めてさえいる。
慣れた頃が一番危ない、それは分かっているが………。
なんとも、その危険察知&魔法の行使すら、身体の「当たり前」……いや「作業」になっているのだから、不思議な感じだ。
敵の危機を察知して殺すどころか、魔法まで使い分けて、距離に応じ、あるいは状況に応じ、淡々と魔物を葬っていく―――。
自分がいつの間にか、何か別の生き物に作り変えられてしまっていたような気がして、それは少し怖かった。
「【ウォーターカッター】」
元の世界に帰るための、目に見えない“資格”のようなものを、少しずつ、着実に失っている気がして。
「【石の槍】」
あるいはそれも、急速に胸中に込み上げた不安によるものだろうか。
「【ウォーターカッター】」
今、元の世界に帰りたいとか、本当に帰れるのだろうかとか、そんなことを考えている場合ではないというのに―――。
「【邪魔だ】」
そもそも俺にとっては魔法の行使に不必要な「呪文」。
それでも魔法を行使する際は、仲間に当たったりしないよう魔法名を叫ぶのが常識らしいが―――そこに、いつの間にか良くない言葉が混じり始めていた。
「【どけ】」
少しずつ―――。
「【死ね】」
少しずつ。
「【死ね】」
何かを殺したり、壊したりする技術ばかり磨いている―――。
「【死ね】」
この言葉には、字面ほどの意味すらない。
「【死ね】」
単調な作業。
「【消えろ】」
まるで足跡のように、通った跡には魔物の死体だけが残る―――。




