「将来」と「そもそも」
「いいか、人の上に立つっつーことは、偉そうに指示出しすることばかりじゃあねぇ。二手も三手も先の未来を見据えて、集団をどう生かすかを考えるこった」
「は、はぁ………」
いつの間にか小部屋の外―――広い通路の端っこで、座り込むオヤジの脇に立ちながら、俺は彼から説教じみた講釈を受けていた。
「物覚えばっかりがソイツの能力の良しあしじゃねえだろう。ソイツが土壇場でどういうことができるのか、その見極めもまた、『人を見る目』ってなぁ? いざという時に何もできねぇような男には、どうせ何も守れねぇんだからよ」
「そりゃぁ………仰る通りかと、ハイ………」
俺は酔っ払った上司の愚痴を聞くサラリーマンの気分だった。どこか懐かしい感覚だ。
とはいえ、話している内容は、その帰着する場所は、傭兵団の未来である。
遠大だし責任重大、そんな大役を将来俺達に背負わせる意図が、オヤジにあると分かって。
「………あのさ、さっきの話、ほんとにソウジが傭兵団を背負うって――!?」
やはり俺と同じように、先程オヤジが言った内容が頭から離れないエレンがオヤジに問う。
「経験は積める内に積んでおけ。テメェらはまだ木っ端のガキだが、それなりに使える。将来、ゆくゆくはそれなりの使い手になるだろうさ」
「(“それなり”って絶対嘘だろ!? オヤジにしては、やけに褒めるじゃん!?)」
「ハハハ……」
まだ「そう」と決まったわけじゃないが、鼻息荒く興奮した様子で囁いてくるエレンに、俺は苦笑して頷いておく。
将来、か………。
オヤジが俺の同行、そしてエレンの同行までをも許した理由………なるほど経験を積ませるためだというのであれば、あり得なくはない話だ。
精鋭ぞろいなのも、俺達を緊張させつつ、何かあった時にちょうど守り切れる人員だからだかろう。
団内最高戦力のオヤジ自身も加わっているしな。
「(ソウジ、すごいねっ! あのオヤジに認められてるよ!)」
「ん、ハハ………」
やはり苦笑しか返すことができない。
「………」
オヤジは、一度だけ険しい顔をして俺を見た。
……? なんだ?
将来に期待する若者を見る目にしては、随分と憐れみを含んだ視線に思えた。
何となくだが―――そう、感じた。
オヤジは何やら向こうの方、通路の奥の方にかすかだが気配のする魔物の方を見ているようだった。
彼の大きな背中を眺めながら………あれに何か声をかけるべきか、少し、迷う。
「将来ね。将来……か」
傭兵団で重要なポストに就く? 将来?
しかし、将来のこと………というと、俺の脳内に真っ先に浮かんだのは、この世界で成長する俺自身のことではなかった。
例えば入社式……俺を玄関先で見送る二人の養親の、微笑んだ顔だった。
亡くなった娘に代わって残ったのが、こんな不出来な義理の息子でも、愛情深く育ててくれた、温かい表情だった。
「…………ここに残るわけにも、いかないんだけどな」
俺が異世界の出であることを、オヤジもニールのアニキも知っている。
それを踏まえた上で、傭兵団の将来について言及したのはどういうつもりだろう。
確かに、俺は「元の世界に何としても帰るんだ」というようなことは、まだ口にしていなかったように思う。
あるいはそんな俺の内心を見透かしたオヤジが、暗に、「留まれ」と引き留めたと解釈できなくもない。
そりゃあ俺に、もし万が一仮に、俺に天賦の才とやらがあったとして―――オヤジが認めざるを得ないほどの、凄まじい戦闘のポテンシャルが秘められていたとして。
将来、大成するだけの器だったとして―――そんな逸材を逃したくない、というのは、それが組織を運営する者としての思考ならば、まぁ理解はできるものの………。
「………………いや」
もしかして。
もしかして、などという思考が頭をよぎった。
殺伐とした思考から合理性が抜け落ちて、もう少し感情的な、しかし単純で分かりやすい理由が、脳裏に像を結び始める。
先程の、オヤジの、こちらをどこか憐れむような表情とセットで。
「………………そもそも、異世界に、帰る…手段など……そもそも………………」




