王都付近ダンジョン・下層
王都から近いダンジョンだが、下層に辿り着くと魔物のレベルも増したように感じる。
背後からの奇襲は減ったが、正面と側面から襲って来る敵が格段に強くなったのだ。
どこまで踏破できるかは部隊の継戦能力次第だが、準備が足りなければ並のパーティーならあっという間に瓦解していたことだろう。
生半可な準備なら地上へ戻ることを余儀なくされるそうだが、戻っても数日以内に踏破した層まで再度潜れば、魔物の数が戻る前にさらに前進できるらしい。
俺達は先鋒をオヤジ、次にバランス型のニールや剛腕モッチ、瞬間火力のドラは中衛、エレンと俺は後衛という隊列は最後まで維持したまま。
「エレ……アルはダンジョン初めてか?」
「そうだよ」
まだ年端もいかない子供であるエレンだが、やはり才能で言えばピカイチだ。側面、あるいは後方から来る魔物を効率的に葬っている。
かつて、同業者……いや廃村を根城にしようとしていた野盗どもと対峙した時が嘘のようだ。あるいは彼女も、人間を相手にするのは苦手という、俺と同じような精神的弱点を持っているためかもしれないが。
「魔力の気配が濃くて不気味だね、ここ………」
「そうだな」
エレンはダンジョンの下層に対し、「不気味」という感想を抱いたようだ。
少なくとも地上とは違うのは確かだが、俺にも異世界転移の影響か、「魔力の気配」というのが分かる以上、彼女の感想にもある程度同意したい。
何と言うか、肌の産毛を風が撫でる感覚に近いか。魔力を肌で感じる……「魂の肌」で感じている、とでも言えば良いだろうか。いまいち言語化が難しいが、とにかく自分に新たな感覚器官が備わっている感覚だ。
「不思議だな………」
「――ソウジっ!!」
「分かってる」
俺は背後から迫っていた俊敏な魔物を、振り向きざま、無詠唱の【ウォーターカッター】で両断する。
『ギョェッ――――』
返り血を浴びると洗い流すのも手間なので、もちろんある程度の距離を空けて魔物を処理しなければならない。
「すっご………」
「ほらアルも、油断するな」
「う、うん」
今さら褒めるほどのものじゃなし。俺の【ウォーターカッター】の威力が凄まじいのは前から知れたこと、そしてこのダンジョン下層の魔物が強いのも、先程からずっと、そうなのだ。
「フッ―――やるな」
俺達をちらりと見たドラが、どこか嬉しそうに口角を上げたまま腰の剣を抜き、側面から来る魔物に斬りかかって両断していた。
『グギョッ――――』
お見事。
ドラの技の冴えは、魔物の切り口を見れば分かる。とにかく断面が綺麗なのだ。
技の出も速い。魔物もドラの剣の届く領域には迂闊に入れない。
流石だ。
……俺もあとどのくらい【ウォーターカッター】を使いこめば、あの領域に達することができるのだろうか。
凄まじい使い手の剣士の場合、戦術的な側面で言うと、相手にとって「近づけない」とか「遠距離を強いられる」場面が生じるから強いのだ。魔法重視の戦い方をしても、やはり剣士は他と差別化されているわけである。




