補助輪付きのダンジョン攻略
「気を付けろしんがり、後ろから一匹来るぞ!」
「はい! ……索敵したはずなのに、後ろからも来るなんてな―――【ウォーターカッター】!」
俺は背後から迫りくる魔物を魔法によって両断した。
死体から察するに爬虫類型の魔物だったとは思うのだが、こんなのアジト周辺の山や森では見たことがない。
しかもどこから湧き出て来るのか分からないときたもんだ。今は俺もとりあえず倒すことだけに集中するが、この無限湧きに近い敵の出現も、ダンジョンならではということだろうか。
やはり魔物にも種類の違い、生息域の違い、出現の仕方の違いなどあるのだなと感心しつつ。
馬車が何台もすれ違える程度には広いダンジョン(地下空洞)内を、隊列を維持しながら皆で進む。
「エレ―――いや、アル。背後は俺に任せろ、アルは皆の援護を」
「了解っ!」
やや俺の方を気にし過ぎとも思えるエレンに指示を出し、俺は背後から忍び寄る魔物―――奇襲を得意とするタイプのやつ―――にだけ集中する。
また一匹、もう一匹と、俺の視界に入った魔物は超高圧の水鉄砲で瞬く間に両断されていく。
相変わらず恐ろしい威力の水鉄砲だ。この力の行使に、徐々に躊躇いがなくなっていく自分自身に驚く。
仲間も最初は俺の魔法の出力などに驚いていたが、今ではそれも慣れたもの。
俺の扱いはすっかり部隊内の魔法使い、一撃必殺のリーサルウェポンだ。
嬉しいような、恐ろしいような。
とりあえず、まだ人殺しが躊躇なく行えるようなメンタルはしていないので、その辺をアテにはしないでほしいもんだな。人型の魔物とか出て来たらどうしよう。人みたいな魔物って、そんなもんはいないらしいけど………。
いるとすれば“魔族”らしいが、あれはまた別口らしいし。
「ソウジ、ごめんっ、側面から背後に一匹回り込ん―――」
「大丈夫だ、問題ない」
俺はもう何度目になるか分からない【ウォーターカッター】で、また魔物を一刀両断。
今度は方向が方向だった。背後に撃つのではなく、角度が側面の壁に対して斜めだったので、やや遠くの方で、ダンジョンの壁をガリガリと削る音がした。
………しばらくするとダンジョン自体が再生するし、いざとなれば強制的に帰還する奥の手があるらしいので、大丈夫だと言われたが………やはりこの広大な洞窟が崩落しないか心配になるのは、もう俺の性分なんだろうな。
前世じゃあ、洞窟の崩落に巻き込まれて生き埋めになる炭鉱夫の話とか、歴史上にはゴロゴロと転がっていたからな。
「――ハハッ、こりゃ楽でいいな!」
「……集中しろ」
「ドラの言う通りだ。モッチ、魔法使いがいるからって、油断すんじゃねぇぞ!」
「へいへい、分かってますよ!」
前衛でばったばったと敵をなぎ倒していく先輩方が頼もしい。俺が背後の敵に集中できるのも、前衛がしっかりしているからだというのは忘れてはならない。
そもそもにおいて、我らが傭兵団のカシラであり随一の実力者であるオヤジに関しては、俺達部隊のさらに前を歩いており、凶悪な魔物は漏れなくオヤジの餌食になっている。
オヤジではなく俺達狙いの残りものが、今度はニールのアニキやモッチ、ドラによって葬られるわけだ。
彼らの射程外の魔物をエレンが、そしてエレンの撃ち漏らしや背後から奇襲をしてくる魔物を俺が倒す。
最先鋒のオヤジ、後続本隊のニール、モッチ、ドラ、エレン、そして殿の俺。
今のところこの編成で手こずる敵もおらず―――流石ダンジョンだ、魔物の数も質も、地表よりは幾分か増しているが―――魔物達は、俺達の敵ではないと言える。
大規模な魔法を使うと危険らしいので(火魔法なら酸欠、水や土なら崩落の危険アリ)、時間が経てば再生するダンジョンといえど俺達が生き返るわけではないので、そのことにだけ注意しつつ進む。
「ソウジ、そっちは大丈夫?」
「ああ、問題ないよ。エ……アルは?」
「ウチも大丈夫。魔力にはまだまだ余裕があるし」
相変わらず俺以外には本当の名前を隠しているらしいアル……エレンは、俺のことを気にしながら、側面の敵に氷の礫だのを飛ばしたり、敵の足元から硬い土のトゲを発生させて貫いている。
余談だが、どうやらこのエレン―――プラチナブロンドの髪の美少女は、ただの美少女ではない。
そこらの男じゃ敵わない程度には剣が扱えて、魔力量も多い。俺が彼女に魔法など、オヤジに教えてもらった知識を自分なりに出力して教えてやっていた時にも思ったことだが、彼女にもかなりの戦闘の才能があると思う。
何よりセンスが良く、そして機転が利く。
「側面の敵に集中してくれ」
「分かった!」
………しかし、モッチの言葉ではないが、やはり楽でいいな。魔法ってのは。
彼らの台詞から察するに、今までは高威力の魔法を十全に使いこなす仲間がいなかったので、ダンジョン攻略など余り積極的にはやらなかったそうだ。王国からの招集を断り続けてお咎めナシであるのも、王国とはある程度の太さのパイプを繋いでいるらしいオヤジの人脈が分かってすごいものだとは思うが………とにかく、こうして今、俺達がダンジョン攻略の王命を賜ったのは、俺やエレンの成長、そしてオヤジの心境の変化が大きいのだろう。
「ソウジ、【ウォーターカッター】めっちゃ使ってるけど、大丈夫?」
「ああ。全く問題ないよ」
「すご………」
エレンは驚愕していたが………確かに、魔力切れみたいなことは起こしたことがないな。
もしかして俺もおかしいのか?
異世界転移に際して、肉体に変化が起きたことは可能性としてあり得るし、もしかしたら他にも―――。
いや、今は敵を倒すことに集中しよう。
ダンジョン上層・中層は難なく過ぎていく。
「もう少しで下層だ、ひとまずこの辺りで休憩する!」
「「「「「了解!」」」」」
安全な場所を見つけたオヤジの号令で、下層手前まで来た俺達は、ひとまずの休憩を挟むことにした。
ここまで三時間ほどか。疲れ知らずの荒くれ者達だが、パフォーマンスの低下は避けられないだろう。
かく言う俺も、少しばかり神経を休める意味で休憩にあずかろう。




