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【毎日更新】ユウシャ・イン・ワンダーランド ――ゼロ・ローグ―― ~異世界に来た元サラリーマン、異世界ライフのスタートは野盗の群れでした~  作者: むくつけきプリン
ライフ・ライク・ローグ

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初めてのダンジョン・前夜

 謁見の間を後にしてから、緊張が一気に解けた影響からか、そこからの記憶は余りない。

 気付けば、この王城内の一室と思われる、どこか高価そうな調度品の並んだ部屋のベッドに身を投げていたのだった。

「………なんか、妙なことになったなぁ」

 天井は打って変わって質素だが、それでも磨かれているのが分かるくらい、綺麗だった。

 この世界に豆電球などは存在しないのか、我らが傭兵団の洞窟アジトはもっぱらロウソクや松明、ランタンなど。それがここでは、洗練された照明―――天井にはめ込まれた魔法の石、通称“魔石”による明かり。今も柔らかい、それこそ豆電球ほどの明かりで、黄色い光が室内を柔らかく照らしていた。

 妙な景色に、妙な心地。

 ここが異世界だということを理解しても、今この時、この場所で我が身が呼吸をしている事実に、どこか離人感のようなものを感じてしまう。

 思えば、激動の二年強だった。

 異世界と思しき場所で(当時はまだここが異世界だとは確信していなかったにしろ)、俺は大瀑布とでもいうべき、世界遺産級みたいな絶景を拝める場所で初めて、異世界らしい生物―――竜に出会い、その翼の風圧で谷底に突き落とされ―――流れ着いた先の傭兵団で、雑用係からのスタート。

 うーん、我ながら波乱万丈だ。

 本当、なんで俺が生き残っているのか謎なくらい。

 これがアニメや漫画だったら、「プロットアーマー」とか言って、主人公が守られる言い訳になるだろう。

 けれども、こと自分自身のこととなれば、人間、自分自身を守っているのは当人の「必死さ」だと分かる。

 結局のところ、あれよあれよという間に迎えたのが現在であり、今の自分自身なのだ。

「………」

 フカフカのベッド。洞窟内のアジトではあり得ないベッドの上で、俺は自分自身の手を眼前にかざしてみた。

 ……何の変哲もない、自分の手だ。

 ここから、「いざとなれば人を殺すことさえ容易な魔法」が瞬時に繰り出されるとは、未だに実感が湧かない。

 加えて、「人」なんて殺したことはないが、その「人」なんてモノより何倍も強そうなヤツをこれから相手にしようというのだ。

 考えれば考えるほど意味が分からない。

 その時その時の勘や思考で何とかやってこれたものの………今こうして我が身を、我が境遇を振り返ると、やはり非現実も甚だしい。

 就寝・起床を繰り返し、寝ても覚めてもここが異世界であることを確認した今では、思考の混乱も落ち着きつつあるが………ふとした瞬間に、果たして自分の身に―――それも、二年前に―――何が起きていたのかということへの疑問は湧いてくる。

 なぜ俺は異世界に?

 なぜ俺の身体が縮んだ―――いや、肉体の年齢が巻き戻った?

 分からない。

 分からないのだ、未だに。

「あー、クソっ………」

 フカフカのベッドの感触は惜しいが、このまま寝ると夢見最悪になりそうで嫌だったので少し起きてみる。

「よっ」

 大した予備動作もなく上体を起こし、ベッドを降りる。

 思えば、この不自然なほどの俊敏な動作、前世では決して備わり得ない膂力もおかしい。

 この世界では個体差はあれ、まだ「子供にしては力持ち」で済むことらしいが。

「定期的に『ふと、我に返る』瞬間はあるが………慣れたらこんなことも思わなくなるのかもしれないな」

 カーテンを開け、窓辺から外を見る。

 まず俺の目を引いたのは―――。

「改めて見ると、デッカイな………」

 デカい月。

 前世の月の十倍以上はあるだろうというほどの大きさ。

 大きいからなのか距離が近いからなのか、それとも両方か。あの月の表面の凹凸まで見えるのは、空が綺麗なのもあるだろう。

「………違う世界なんだなぁ」

 そして、その月から視線を下に移す。

 眼下には、明かりの灯った家々が遠方まで並ぶ城下が一望できた。

 夜は夜でまた違った色を見せる町。出店は半分ほどが店じまいしているが、色町のあるらしい方角が賑わっている。

 ………これもまた、前世ならばどんな景色であったかと想像してみる。

 ここは仮にも王都。一応はそれなりの国土を持つ王国の、首都だ。

 前世で言うと、それこそ大都市である。

 地を這う血管みたいにあちらこちらへ走った道路や、そこを行きかう自動車、窓に明かりを灯したビルが所狭しと並ぶ街並みが、見えていたことだろう。

 文明の発展度合いで言えば並ぶべくもないが、この異世界は魔法を礎にして発展しているフシがあるので、侮れないのだ。

「………うし。大丈夫、俺はやっていける」

 現に、ここまで何とかやってきた。

 そもそも拾われた先が、大当たりだった。

 いや、優しい貴族の家などに拾われていればと思わなかったわけではないが、しかし、これはこれで良かったのだ。

 俺は、自分で自分を守る術を、とことんまで身に着けられた。

 少なくとも、ここで突然に野山に放り出されてもしばらくは生存できるだけの自信をつけさせてもらった。

 ならばこれは、異世界のスタートで言えばかなり大当たりの部類だと言えるだろう。

「運が良かったよな………」

 もし俺と同じような境遇の者がいたとして、ソイツが俺と同じように生きていられるかははなはだ疑問だ。

「おじさん、おばさん、俺、何とかやってる。元気だよ。だから二人も、息災で―――」

 俺は大きな月を見上げて手を合わせる。

 まだ安否の確認のしようもない、元の世界で俺を育ててくれた二人のために、祈っておいた。

 コンコン

「……?」

 祈っていたところで、部屋の扉がノックされたので、俺は扉の所へ向かう。

 何だろう、メイドさんかな―――と思ったら。

「そ、ソウジ、いるか……?」

 プラチナブロンドの、目が覚めるような美貌を持つ美少女。

 今回、ニールニキ達の遠征に俺と共に同行する、エレンだった。

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