ダンジョンに潜る前に
ダンジョンに潜ることになった。
そうと決まれば準備開始だ。
布と革で作られた年季の入ったバックパックに、保存食や予備の鞘付きナイフを入れたり、回復魔法が使える人員が欠けた場合も想定して、薬草の類も何回分かを包んでおく。
用意をし過ぎてもし過ぎることはない。なにせ、今回のダンジョンの奥に出たという魔物は並の冒険者ですら太刀打ちできないものらしいしな。
その「並の冒険者」の示す戦闘力の括りに俺が入っていないのは、果たしてどう捉えるべきか。
俺のこの世界で身に着けたスキルがそれ以上なのか、果たしてただの過大評価か。
慎重を期すなら遠慮するべきだ。とはいえ、俺はこの傭兵団のアジトで骨を埋めるつもりは全くない。
いずれ出て行くのなら、やはりこうした時には積極的に見聞を広めに行くべきだろう。
というか並の冒険者をそれほど見たこともないので、そうしたものを見かけることはあるのだろうか。
もし機会があるのなら、見聞を広める意味でも、是非とも俺は今回、気を引き締め、色々なものを見て学習し、憶えておこうと思う。
「ウチも行く」
「……ん?」
まだ容量に余裕のありそうなバックパックに、最後に何を詰めるか悩んでいたところ、後ろから声がかかった。
「ソウジ、ウチも連れてって」
「………んん?」
プラチナブロンドのボブカットが似合う美少女・エレンだ。
彼女は自分も連れて行けとせがんだ。
とはいえ、今回お誘いを受けたのは俺だ。
他のメンバーはニール、モッチ、ドラ、お馴染みの戦闘力高め&実力者のパーティー。
そこに万年練習試合の補欠みたいだった俺が入るわけで、それだけで皆の足を引っ張らないかと心配だったのに、そこにエレンが入るというのは―――。
「………アリだよな」
結論:「有り」です。
まぁ、エレンだって俺と同じくらい魔法は使えるようになっているとして、他の実力も軒並み似たようなものだ。俺の同行が許可される旅なら、エレンもまた頼もしい助っ人となろう。
「言うまでもないけど、ダンジョンっていうのは命がけで―――」
「ほんとに言うまでもないことじゃん」
「……だよな!」
自分で言っておいてアレだが、ダンジョンって命がけなんだよな。
そんなところに平然と向かおうとしている自分自身に驚く。
あと、そんな俺よりも覚悟が決まっていそうなエレンにも驚いている。
というか既に準備万端のバックパックを持参していた。俺より準備が早いな。
……して、エレンがはい、と手渡してくる、すり鉢とすりこぎ棒。
「ソウジ、薬草を煎じたら日持ちしないんだから。あっちで薬作るなら、すり鉢とすりこぎ棒も要るでしょ」
「そうだな、サンキュ」
………俺よりしっかりしてるわ。




