本当に打ち解けて
「………すっきりとした目覚めだな」
目覚めすっきりなのはいつものことだが、今日のはひと味もふた味も違う気がする。
やはり、心の奥底では猜疑心や罪悪感が澱となって、俺の気分にも少しばかりのしこりを残していたのだろう。
まだ傭兵団内で他の者が俺の出自を知った気配は感じられないが、それでもここのカシラであるオヤジに打ち明けられたのは大きい。
ともすれば俺の出方でも窺うため監視でもつけられるのかと思ったが、俺が異世界出身だと言ったあの日から、オヤジの対応は(余り)変わらなかった。
「ソウジ、ちっと付き合え」
「へ、ヘイッ……!」
……まぁ、少しだけ、ほんのすこぉ~しだけ、変わったことはある。
事あるごと、オヤジが俺を呼びつけ、我らが傭兵団のテリトリーの外に連れ出す機会が増えたことだ。
狩猟におっかなびっくりついて行ったのも、遠い昔のことのよう。
今なんか、ほら―――見ての通りオヤジもいるし、そして傭兵団に拾われてからの俺を、世話係のように色々と教えて世話してくれたくせ毛のイケメン・ニールのアニキもいるし―――。
「ソウジも随分と付き合いが良くなったな」
「……そうッスかね? 以前から、自分では皆さんについて行ったりしてると思うんスけど」
「なんつーか………アレだ、愛想笑いが減ったんだな。代わりに本域での笑いが増えたっつーか」
「えぇ……そんな笑えてませんでしかたね、俺………」
「ハハハ!」
「痛たたっ! ちょ、苦しいですってアニキ!」
あと、今気付いたが、ニールのアニキと俺の距離が妙に近くなっている気がする。
「お前は本当におかしなやつだな! ほんとにそのナリでガキじゃねぇとか抜かすのか?」
「………まぁ、実年齢は二十四なんで」
魂の年齢を「実年齢」みたいに表現して良いのかはまだ疑問の残る部分だが、他に言いようもないのでそう言っておく。
「ったく、えらく気の小せぇ同い年だ!」
余談だが、オヤジの奥さん以外で彼に一番近しいポジションにいるのがニールのアニキだ。
ニールニキには既に、俺の出自は打ち明けている。他のやつらにも……まぁ、気が向いたら、少しずつ話せればいいな、くらいには思っている。
「………って、待ってください。ニールニキ、今『同い年』って言いました?」
それはそうと、俺は聞き逃すわけにはいかない重要ワードを拾ったので、思わず訊いてしまった。
「言ってなかったか。今年、ソイツは二十四になんだよ」
「はっ!?」
衝撃の事実がオヤジの口を通して語られる。
俺と、ニールニキが、同い年………だと……!?
「………ってことは、俺と同い年……?」
「おうよ。だからオレには敬語は要らねぇよ」
「い、いや、でも先輩は先輩なんで……!」
「ハハハ。妙に義理堅いところは相変わらずだな!」
ニールニキに背中をバンッと軽く叩かれた。俺の言った前世での年齢を疑いもせず信じて、同い年だと笑ってくれる。
まぁ年齢に関しては本当なので罪悪感も何もないが………しかし、不思議なものを感じていた。
「お前、身体が縮んじまって心まで縮んじまったんじゃねぇか?」
「そりゃ否定できませんけどね」
「ハッハッハ!」
肉体的には俺よりお兄さんで、魂的には俺と同い年の天然パーマのお兄さん、ニールニキ。
「テメェじゃ気付けねぇこともあるもんさ。ニールにゃまだまだ学ぶことはあるようだな?」
「うっ……そ、そりゃそうですよ! 別に俺は驕っちゃいませんよ!」
彼に肩を組まれる俺を眺めながらニヒルに笑うオヤジ。謙虚なだけが取り柄だもんな、と実に今さらなイジリをかましてくる。
その日は男三人でピクニック感覚で魔獣を狩りに行き、夜には焚火を囲みながら雑談して、眠った。
終始、心がずっとフワフワしていた。不思議な感覚だった。
………幼少期、ハルカが目の前で死んで以降、ずっと俺には親しい関係性の他人がいなかった。
こちらを実の息子のように愛してくれる養親にさえ、どこか他人行儀だった俺に、まさかこんな間柄の他人ができるなんて。
こんな、絆ができるなんて。
「………グスッ……」
情けない、とは思いつつ、一人、星の綺麗な夜空を見上げながら、滲む視界にまぶたを閉じた。
ハルカのお父さん、お母さん………俺、頑張るよ。
だからどうか、二人とも、息災でいてくれ。




