告白
俺がアジトの洞窟内に隠し部屋を見つけてしまった、翌日の夜だ。
俺はオヤジの部屋に呼び出されていた。
「ソウジ。爺さんから、話は聞いた」
「……そうですか」
爺さんとは、あの星詠みの爺さんに他ならない。というか他に爺さんと呼べるほど老齢な者がいないのだ。
「テメェの星は………」
「俺の、星は………?」
この後のオヤジの言葉、彼が出した答えで、俺のこれからの運命は決められると言っても過言ではない。
「―――テメェの星は、壮大な旅を宿命づけられてるんだと」
「壮大な旅………? ……んんっ? 何スかそれ???」
オヤジが不思議ちゃんみたいなことを言っていた。
俺ごときにそんな壮大な運命が待っているはずがない、と思ったのだが。
しかし、よく考えると今の俺は、魂は社会人経験のある人間のつもりでも、こうして十代の、それも十歳とか十一歳とかそこらの肉体で存在しているわけで。
そうしたことを鑑みるに、現状でも充分、数奇な運命ではあるんだよなぁ………。
だから、あの爺さんの言うことにも、これからオヤジの言うことにも、真面目に耳を傾けた方が良いという結論に達した。
「テメェは異世界の出らしいな」
「―――ッ!」
不意打ち気味に発せられたオヤジの言葉にはっとする。
バレた。
とうとう、オヤジにも。
これから我が身がどうなるのか―――手に汗握る展開に、内心オロオロしていた時だ。
「………なぜ、言わなかった」
「……?」
オヤジは―――やや眉根を寄せて、不満そうにした。
いや、エレンもよくやる可愛らしい顔ではないのだが。
耳の下から顎まで真っ黒な髭で覆われたむくつけきオヤジの顔は、何というか―――。
……何というか、大人の男が―――俺の魂の年齢にしても、俺自身より二回り以上も歳上であろう御方が―――まるで、息子の不始末を咎めるような、俺の秘密主義を悲しむかのような表情を浮かべたのだ。
「出自を細かく言えというんじゃねぇが………テメェ、何も分からず、よくもまぁ………いや、そういうアレを言うつもりもねぇが………チッ、なんて言やぁいいンだかな………」
あのオヤジが困ったように頭をかき、俺にかけるべき言葉を探していた。適切な言葉を選ぼうとしていた。
あの、オヤジが。
最初は俺のことを利用するみたいなことを言っといて、ただ俺を拾って、傭兵団内でここまで育ててくれたオヤジが、だ。
「………」
どうする。
正直、情で絆されかけている。
我が身の保身を第一にと叫ぶ理性。それでも、こんな怪しい俺などを拾って、受け入れ、ここまでこの世界に慣れさせてくれた―――この恩人に、果たして俺は嘘をつき通したままで良いのか。
天命に身を委ねるべきではないのか。道義的に、仁義的に。
「………」
俺は必ずしも義を第一に考える人間ではない。そんなやつではなかった………はずだ。
けれども。
今、この時は―――俺を育ててくれた養親に報いることもできなかった俺にとって、一つの分岐点な気がする。
この人に報いたい。報いなければならない。
そんな………ちっぽけな矜持とか、義理とか。
想いが。
自然と俺の口を開かせていた。
「………今まで黙っていてごめんなさい。あのお爺さんの言う通り、俺は異世界の人間です」
「………」
オヤジはイカつい顔を悲し気に歪めていたのを解いて、納得したように―――
「……そうか」
静かに、ゆっくりと頷いたのだった。
その日、俺は自分でも持て余している、自分自身についての秘密―――「異世界の出身」であることを、オヤジに改めて告白した。
それですぐに何かが変わるわけでもない。オヤジが急に俺を殺そうとしたり、厳しい言葉を浴びせるなどすることもなかった。
ただ、今まで秘密にしていたことを、罪悪感と共に打ち明けた―――俺のこの選択が、果たして今後の俺にどのような影響を与えるのか。
今はまだ、知らない。
知らないが、まぁ、なるようになるだろう。
とにかく俺は生き延びなければならない。
元の世界に戻る手段を、見つけるまでは。




