真面目な話
最近ではドラによる剣の修行も、エレンと一緒に卒業した。
今ではオヤジによる魔法の修行からさえも解放された俺は、オヤジからの薫陶を自身でまとめ、エレンに魔法を教えるのと………あとは、日々の雑用以外では、もっぱら時間を持て余している。
もちろん、暇な時は他の人間の仕事を手伝うようにしているが………そうすると、意外と仕事は早く終えてしまうものだ。残るのは、少数編成で挑む遠征だけ。それは限られたメンバー・連携に慣れた者同士で行くものなので、俺の同行は当然ながら余分&余計だ。
「どうしたのソウジ。そんなにソワソワして」
「いや………」
さて、そんな俺が今、暇なくせにソワソワとしてしまうのは、昨夜、オヤジとのことがあったからだ。
俺は洞窟内、おそらく団員でも少数にしか共有されていないであろう隠し部屋を探し当ててしまった。
そこにいたのは、不思議な星占い爺さん。オヤジは確か、「星詠み」などと呼称していたが………。
その爺さんと接触し、要らぬ予言(?)を受けてしまったことで、オヤジの手を煩わせる事態になった。オヤジ曰く「沙汰を待て」。俺としてはもう気が気ではない。
こうしてつらつらと状況を振り返れば、まさしく俺の「やらかし」である。触らぬ神に祟りなし、とはよく言ったものだ。俺も夜中に冒険心を起こして動き回らなければ、このようなことにはならなかった。
増長していた? 傲慢だった?
分からない。
だが、俺はフラフラと、まるで誘蛾灯に誘われる羽虫のごとく、気付けばあの場所に足を運んでいたと思う。
我ながら、自分らしくない行動だった。普段ならもう少し注意していたはずなのに。
ああ、もう。
やはり夜逃げの準備でもしておいた方が良いだろうか。
俺が異世界出身であることは、この傭兵団内でも、おそらくあの爺さんしか知らないこと。
つまり今回、オヤジがその事実を爺さんから聞けば、俺の隠していた秘密をオヤジは知ることになる。
何にせよ、俺は「異物」確定だ。
排斥されるのか、これまで通りの生活を送れるのかは分からない。
………オヤジは、俺をどうするだろうか。
俺はこれから、どうなるだろうか。
怒られるか。吊るされるか。
事が事だけに、俺は最大限に保身を考えている。
まだ元の世界に戻れるか、戻れないかさえも分からないのに、こんなところで死んではいられない。それだけは確かだ。
やっぱり夜逃げかな………。
「―――ソウジっ!!」
「うわっと」
気付けば目の前に、美しい少女の顔が近づいていた。
プラチナブロンドの髪が視界の端に舞う。金色の虹彩が弛緩し、いっぱいに広がった黒い瞳がこちらを覗き込んでいた。
「―――ちょっと、何さ、ぼうっとしちゃって!」
「い、いや………」
少しばかり長めに思索に耽ってしまっていたらしい。もっとも、思索、などと、実際は保身に関することなので余り格好つけられるものでもないが。
……エレンは、この傭兵団に居場所があるだろう。
もはや俺の次くらいには、この傭兵団でも頭角を現してきている彼女だ。団内では密かに俺とエレンが『化け物世代』などと呼ばれていることも知っている。
だから、俺がいなくなっても、彼女は平気のはず―――。
「エレン、ちょっと話があるんだけど―――」
「………え?」
俺が少しばかり深刻にな話を切り出すと、みるみるうちにエレンの表情は曇っていった―――。




