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【毎日更新】ユウシャ・イン・ワンダーランド ――ゼロ・ローグ―― ~異世界に来た元サラリーマン、異世界ライフのスタートは野盗の群れでした~  作者: むくつけきプリン
ライフ・ライク・ローグ

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告白しとかなきゃ

「(黒くてデケぇあのヘンな魔獣を狩ってる時も、安心感がすげぇんだ)」

「(ソウジは明確な、いわゆる“天才”というやつだが、(おご)りがない。つまり、その才覚の凄まじさに反して非常に堅実なんだ。だから安心して背中を任せられるのだろう。味方のサポートも完璧だ)」

「(弓も剣も魔法も、短期間ですげぇ上達しちまったもんな。ドラの見立ては正しかったってことか………)」

「(俺などまだまだだ。ソウジに秘められた才覚を最初に見出(みいだ)したのは、あのオヤジだからな)」

「(なるほどな。最初からオヤジには全て分かっていたってことか………。まったく、本当にすげぇなあの人は)」


 ………………おぉう。

 俺とエレンの前を歩く太っちょ・モッチと痩身凄腕剣士・ドラは、そんな話ばかりしていた。声を潜めているが、俺にはしっかり聞こえている。

 何ともまぁ、俺にとってくすぐったい話題だよな。

 めっちゃ褒めてくれるじゃん、アニキ達……!

 俺を受け入れてくれているらしいのが分かって、思わず抱き着きたくなるが、ホモだと勘違いされるのも嫌なのでこの気持ちは抑えておく。

「なぁソウジ、聞いてる? ウチの話」

「え? ああごめんごめん、何の話だっけ」

「んもぉ! ぼうっとしてニヤニヤして、何考えてたんだよ!? キモいんだけど!」

「キモ……!? い、いやゴメンって!」

 俺がアニキ達の話に聞き耳を立てるのに夢中だったせいで、すっかりへそを曲げてしまった()()()

()()、悪かったって。ね、機嫌直してよ」

「じゃあウチの話聞いてよ!」

「分かったよ。ツクァーの実のところからもう一回話してくれるか?」

「……っ! そ、そんな顔をしてもダ、ダメなんだからっ!」

 頬を染めてそっぽを向くエレンを何とか宥める。

 感情が豊かで可愛らしいな。

 いや、この辺は親しくなる前から変わらないか。

 ちなみに彼女の本当の名前を知っているのが俺だけらしいというのも、何だか不思議な感じがする。

「ソウジってホモなんじゃない!? さっきはずっと、モッチとドラのお尻見てたっ!!」

「ホモ……!? ばっ、お前っ―――」

 慌てて前方に視線を戻すが、モッチとドラは今度は何か白熱した議論を展開しており、こちらのガキっぽい会話が聞こえた様子はない。

 ほっと胸を撫で下ろす。

 そもそも俺は、性別を隠していたエレンにドキドキしていた男だ。自分がやはりホモじゃないと分かって今では安心しているが、俺の異性愛を今後も揺るがぬものとするために、ここは重要な線引きだろう。

 自分の好きなものとは違うものを押し付けられるのは嫌だが………自身の好きなものを公言し、態度で示しておくのは重要だからな。

 ………それを、本人に言うことすらできず、死に別れることだってあるのだ。

 だから俺は、女が好きだということをはっきりと言っていきたい。

 ………いや待てよ?

 そもそも、性別を隠したエレンのことに何となく気付いていたというのはキモい事実だが、それだけ俺の嗅覚は信頼できるということ……!

 やはり俺は、生粋の女好きだったのだ―――!

「俺はホモじゃない!!」

「キャッ!?」

 俺はせめて、ここだけは誤解のないよう、傭兵団内ではいまや一番親しいエレンに対し、彼女の肩をがっちり掴んで説いた。

「俺はホモじゃない! それだけは、それだけはエレン、どうか理解してくれっ……!」

「えっ………ぁ……ぅ……そ、ソウジっ……!?」

 か弱い悲鳴を上げ、身体を縮こまらせるエレン。

 背丈はまだほんのわずかに彼女の方が高いはずだが、のけぞった姿勢のため、至近距離で俺の顔を見上げる格好になる。

 目を白黒させるというのはこのことか。長いまつ毛の目元をぱちくりと瞬きさせながら、エレンは半開きだった口を真一文字に結んだ。

「(ご、ゴクッ……!)」

 俺が余りに必死過ぎたのもあるだろう、真っ赤な顔となったエレンは動揺も隠せず、思わずといった様子で息を呑む。

 彼女の両目は潤み始め、その輝きの中に、俺の必死な顔を映し出した。

「冗談でもホモ呼ばわりはやめてくれ! ()()()()()()()………!」

「すっ!? ()()()()()っ……!?」

 女の子らしく伸ばした髪、整った表情のエレンを見てもそうだが、俺はやはり男より女がいいと再認識する。これが妙齢の美女だったらなぁ、なんて思いつつ。

「俺が好きなのはぁ………!」

「ソウジがす、好きなの、は………?」

 俺と至近距離で見つめ合ったまま、「はぅっ……」と短い溜め息を吐くエレン。美しい金色の虹彩が弛緩し、中心の黒い瞳がいっぱいに拡大する。

 整った表情はわずかに強張りつつも、紅潮した頬と潤んだ瞳が、それでも俺の話を聞こうとしてくれる彼女の真摯な態度を表していた。

「俺が! 好きなのは!」

「ひゃいっ!?」

 ここは絶対に誤解のないよう、また、あらぬ噂が流れぬよう、しっかり言い含めておかねばならないだろう。


「俺が好きなのは、女だっ―――!!」

「………………………へっ?」

「……ん?」


 俺が「これだけは譲れない」という思いを口にしたところ、エレンは「スンッ――――」と明らかな無表情になり、その目から輝きが失せた。

 ………何だろう。

 何となくだが、今、俺は普通に失望された気がする。

「はぁ………」

「あれっ?」

 困惑する俺の目の前。俺はガッチリとエレンの両肩を掴んでいたはずなのに、彼女はあっさりと脱け出して歩き始めた。

 やや乱れたプラチナブロンドの髪をそのままにして、彼女がなぜか肩を落としている。

 わずかにショゲたような彼女のその背中は「失望」を表していた。

 ……いや、なぜショゲる?

「(まったく、ソウジってばそういうトコあるから………)」

 呆れたような、苛立ったような独り言がぶつくさと聞こえてくる。

 また俺何かやっちゃいました?

「ほらソウジっ! 何してるの、モッチもドラももう行っちゃったよ!?」

「へ、へ~い、今行きやす~」

 何だったんだ、今のエレンの態度は……?

 とりあえず、俺は小走りでエレンの背を追うのだった。

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