まず、火と水の魔法
「そぉらそら! 燃えろ燃えろ、燃え尽きろ!」
生木ばかりで大規模火災の恐れの少ない場所にて、火魔法を行使する。
燃え盛る炎は舐めるように地を這い木々の葉を揺らして、狙った対象を燃やし尽くす。
「すっご………あの距離まで届くのか………」
俺の傍らに立っていたアルが呆然としていた。
俺の火魔法により燃やし尽くされた魔法訓練用の的を見ての反応だ。
ちなみに今俺が使った魔法は初級魔法のくせに激しめのやつであり、放射状に広がる火炎が射線上のものを全て焼き尽くす仕様となっていた。
本来は数メートル先までしか届かない、口から吹いたアルコールに火をつけるような、大道芸並みの威力と射程しかない魔法のはずが、なぜだか俺のは一味違った。
オヤジに言わせれば、俺のそれは通常の十倍以上の火力が出るらしい。やったぜ。
オヤジが言っていた、俺の魔法適性がバカ高いって話は嘘じゃなかったんだ……!
「あ………的が………」
その的は土くれで作られた、ただの土の塊。ただし今は焦げて真っ黒になり、ほどなくしてサラサラと音を立てながら、地面に崩れ落ちた。
まぁ、土魔法を使えばいつでも何度でも作り直せるものなので、全く問題はない。
さて、お次は。
「穿て! 【高圧水噴射】ーッ!」
続く魔法は、手元で生成される水をその場に注ぐのでなく、ある程度の勢いをつけ、なおかつ圧縮して放つ高圧の水鉄砲。
元は俺が習得した初級魔法の【水鉄砲】に違いないが、使っているうちにどんどん圧力を加えて威力を上げることに成功していった。
この【高圧水噴射】は建物高所の洗浄にも使える優れた代物だが、残念ながら非戦闘用、非殺傷用。対人戦では使えまい。
そこで俺は、前世の知識を使ってさらなる上位の技を習得した。
名付けて【ウォーターカッター】。どんな魔法なのかは、まぁ……そのまんまだ。
「すごい! ソウジの【高圧水噴射】で的がどんどん崩れて―――」
こんな魔法で歓声を上げるアルには悪いが、まだまだアガるぜ、ついてこいよ……!
俺は右手の先から発射していた【高圧水噴射】にさらに圧力を加える。
「はい【ウォーターカッター】」
高圧の水噴射が超高圧の水の線になり、シュンッ、と飛んで行った。
その先で土の塊の的に小さな穴が空き、さらにその後方にあった岩の塊の表面すら抉っていく。
一秒……二秒……と行使を続けていく毎に、驚くべきスピードで岩の掘削が進んでいく。
大きな音はなく、俺の耳に聞こえてくるのはウォーターカッターの「シューッ」という音くらいなので、静かな景色の中で細い水に小さな穴を空けられていく岩というのは、ことさらに不気味な光景である。
極限まで水の拡散が抑制され、驚異的な威力と射程を誇る。現代でもここまで射程のあるウォーターカッターはないだろう。普通にかなりヤバめの兵器だと思う。
「うーん……ま、このくらいか」
「えっ」
俺が三秒くらいで【ウォーターカッター】の行使を止めると、前方を見たアルは歓声を上げるでもなく、ドン引きしたみたいな、ある意味で素の驚きを見せた。
的と、その後方の岩を見遣って、目を丸くしていたのだ。
「―――ま、そういうわけで。水魔法って実は危ない魔法なんだよ。分かったか?」
「う、うん………」
何となく、岩の手前に的を設置しておいて良かったかもしれない。
俺の放った【ウォーターカッター】は、土くれでできた的だけでなく、後ろの岩さえも貫通して小さな穴を空けていた。数メートルはある、分厚い岩の塊を貫通していたのである。
さらには、その岩の後ろにある木の表面まで軽く抉っていた。あれ以上【ウォーターカッター】を続けていたら、一体どこまでこの水は進んでいくのだろう。
距離にして、流石に二十五メートルほどまではギリギリ殺傷力を維持できないと思う。魔法というファンタジーを行使してさえ、水の圧縮噴射にはそれほどの難易度が伴った。
ただ、これを無詠唱で発動できるとなれば、下手な拳銃を所持するよりなおのこと危険なのは事実だ。
大岩に穴を空けるなら数秒待たなければならないが、人体に向けたなら、数ミリ秒くらいで相手を殺せてしまうだろう。それこそ、急所に風穴を空けるとか、横薙ぎに振るうことでカッターらしく、こう、スパッと。
(………まぁ、俺もちょっと自分でビビってるんだけどな)
やっぱりこの魔法怖い。
ちなみにだが、オヤジもウォーターカッターについて知っていたわけではなかった。だからオヤジが言うには、これは俺が編み出したオリジナルの魔法ということになるらしい。
まぁ厳密には、俺は前世の知識を使って生み出した魔法なので、オリジナルというよりは単なる独学の魔法といった代物だが。
水に圧力を加えて限りなく細くしたら何でも切れる、そんなことを思いついたのはオヤジの知る限り俺が初めてとのこと。
魔法のある世界なら既に存在してもおかしくないと思ったのだが、意外と科学文明と魔法文明では、魔法そのものに対する見方というか着眼点も違うものなのだろうか。
この世界の魔法には、まだまだ開拓の余地があるであろうことが分かってきた。
「ソウジってすごいな……!」
「よせやい。照れるじゃねぇか」
「すごいすごい! 色んな事知ってるし、何でもできるし!」
「何でもはできないわよ。できることだけ」
「……?」
「………いや何でもない」
まぁこの世界に羽〇翼さんはいらっしゃらないだろうしな。ネタが通じないからといって肩は落とさない。




