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【毎日更新】ユウシャ・イン・ワンダーランド ――ゼロ・ローグ―― ~異世界に来た元サラリーマン、異世界ライフのスタートは野盗の群れでした~  作者: むくつけきプリン
ライフ・ライク・ローグ

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決意、さらなる成長のきっかけ

 戦闘技術方面で色々上達したり、ほぼ唯一の同年代である少年が実は少女であったと判明する、など波乱万丈な展開に恵まれ(?)つつも、俺は日々の仕事で雑用をこなすところに基礎を置いている。

 洗濯に料理にと、俺に割り当てられた日々の雑用そのものは変化しなかったからだ。

 そしてそれは皆同様。もっとも効率良くこなせる者にその作業が割り当てられやすいという点は、社会の縮図、また社会における分業の理想の在り方そのものだ。

 洗濯など下っ端の仕事だと思われるかもしれないが、この、俺を拾った傭兵団の運営においては、どちらかというと“家族”と言われるもののそれに近い。

 もちろん俺は下っ端には違いないが、だからといって洗濯をしている下っ端の俺が蔑まれることもなく。


「――おうソウジ、すまんが追加頼むわ」

「へい! そこに置いといてください」

「じゃあ行ってくる」

「いってらっしゃいませー!」

「相変わらず元気がいいな……」

「いってらっしゃいなー!」

「お、おう、行ってくる」

 洞窟を出て行く人間が俺を見かけると気さくに声をかけてから出かけて行ったり―――。


「――あっちの服乾いてる?」

「あそこに干してた一式ですね、乾いてますよはいどうぞー!」

「ありがとね」

「精が出るねぇ。洗濯に料理に狩りに、大変な仕事全部できるんだから、大したもんだよ」

「本当にねぇ」

「姉さん方にそう言っていただけると嬉しいです、ありがとうございますー!」

「そんな頑張ってるソウジにお姉さん達からプレゼントだ。ホレ、匂い嗅ぐくらいは許してやんよ」

「もちろん丁寧に洗わせていただきますー!」

 やや露出度の高い服装の、筋肉ムキムキの女傑達に下着をプレゼントされたり―――。


「――おうソウジ、昨日からちょっと遠出してたんだけどよ、ちょっとクンセイ……?っての試してみたら上手くできたわ。お前にもちょっと分けてやるよ」

「ありがとうございます! ……なにコレうンま~!!」

 おそらく俺の料理に影響を受け、文化的な趣味嗜好に目覚め始めたむくつけき男達が、趣味の一品の差し入れてくれるようになったりなど―――。


「………うん。圧倒的()()()感」

 立場としては“下っ端”より“末っ子”が近いかもしれない。

 俺の元いた世界では、多くの社会において身分制を敷き、最下層の者を設定することにより社会の不満の受け皿としてきた歴史があるが、どうやらこの世界はそんなこともないのかもしれないと認識を改めることになりそうだ。

 あるいはこの傭兵団が特別なのかもしれないが、とにかく俺は恵まれていると思う。

 少なくとも、幼少期に俺が身を置いていた環境より居心地が良いのだけは確かだ。

 そうそう、居心地が良い、と言えば―――。


「お、おはよう、ソウジ………」

「おはよう、アル」

 どうにも、先日の性別バレの一件以来、アルの様子がおかしかった。

 当初は成り行きで泣かせ、怒らせたものの、そこからさらに彼…彼女の俺へのアタリは和らいだ。

 まぁ、流石の俺も、もう彼女を連れションに誘わなくなったし、そのため怒られる頻度が減ったというのもあるだろうが。

「そ、ソウジ、あのさ………今日、空いてる……?」

「ん? ああ、空いてるよ」

「じゃあさ、ウチと一緒に、狩りにでも……行かない? 姐さん達には言ってあるから」

 今ではこうして、モジモジとしながらも、一緒に何かしようと誘ってくれるまでになっている。

「ダメ……か……?」

 伸びてきた髪を後ろで束ね、小さなポニーテールみたいにして女の子らしくし始めたアルが、可愛らしく上目遣いでこちらの返事を待っている。

 俺としては、別に今日は遠征日でもないし大きな仕事が割り当てられている日でもないので、断る理由がない。

 いつもなら洗濯の後ではオヤジと共に森の方へと行き、魔法の徹底訓練を施してもらうところだが、昨夜から数日間、オヤジは所用でアジトを留守にする。

 半日ほど使う魔法の修行というルーティンがなくなれば、途端にぽっかりと予定が空いてしまう一日のスケジュール。アルと遊ぶくらい、何の問題もないだろうな。

「いいよ、じゃあ一緒に狩りにでも行こうか。雑用諸々を片付けてからになるから、もう少し後になるけどいいか?」

「……! う、うんっ!」

 パァ…と表情を輝かせ、アルは喜色満面で頷いた。

 何ともくすぐったい反応だが、俺が久しく持てなかった“友達”とのやり取りが、何だか懐かしく新鮮だ。

 魂の年齢で言えばかなりの差が(おそらく十五歳前後ほど)あるのだろうが、俺の魂はボッチの形をしているのでちょうどいいハンデだろう。しょうがねぇから手加減してやる! ありがたく思え!

 ………ところでハルカが生きていれば、俺のこうした幼少期はもう少し長く味わうことができ、もう少し違う人生が待っていたかもしれないのにな。

 アイツは俺を庇って死んだ。

 それが事実であり、そしてそのことに今までの俺は充分に報いられたのか、そんな評価すら―――おそらくは下せないであろう、俺の「前世」……「元の世界での人生」だった。

 ………そうだ。

「―――そうだッ!」

「うぇっ!?」

 これからは、せめて、誰かに守られるのではなく、誰かを守れるようになろう。

 俺が強さを求めるのに、元の世界に戻るためだけというのも、どうにもモチベーションになり切らなかった気がするのだ。

 そうだ、これからの俺は―――!

「よーし、やるぞぉーっ!」

「えっと……そ、そんなにウチとの遠征に、やる気ってコト……?」

 嬉しそうにモジモジしているアルは置いといて、俺は泡まみれの手を固く握りしめ、決意を固めるのだった。

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