カミングアウト
「気持ちは分かるけどさぁ」
とりあえず動揺を抑えるように俺は言葉を紡ぐ。
「俺はホモじゃないんだよ」
これは譲れない部分だ。俺は普通に女性が好きだからこそ。
「だから悪いけど好意は受け取れない。今まで通りに友人として―――」
濡れた身体をよく拭きもせぬうちに、やや説教臭く同年代に言う俺。
一方、俺に押し倒されるような格好で、地面に組み伏せられたまま顔を真っ赤にする人物は堪ったものではないだろう。
「~~~~っ!」
しかし、俺に説教臭く言われた同年代―――顔を真っ赤にしたおかっぱ頭の、男にしたってやや顔立ちが綺麗過ぎる美少年―――は、我慢ならないといった様子で俺を睨みつける。
お? なんだその目は。
一緒に水浴びすることを拒んだくせに、俺が水浴びしてりゃコソコソ覗いていたやつが、なぜ―――
「―――ソウジっ!」
「ひゃいっ!?」
突然ブチ切れられたので、驚いて変な声を出してしまう。
あらやだ怖い……。
「ウチは………ウチは………!」
アルは溜めて溜めて、そして衝撃の内容を口にする。
「ウチは、女だーーーーっ!!!!」
「うぎょえぇぇーーーーっ!?!?」
そして俺は、とても驚き慣れていない者が発するような、南国の鳥の断末魔みたいな驚きの声を発するのだった。
俺の水浴びを覗いていた不審な者を取り押さえてから一転、その人物の大声と、何より衝撃的なカミングアウトでひっくり返った全裸の男(俺)。
なんとも「終わってる」絵面の後、目の前からすすり泣く声が聞こえてきたことで、俺は慌てて起き上がり、姿勢を正す。
「いまっ……までっ………言えなぐ、でぇっ……!」
「お、おぉ………落ち着け………よし、よしよし、ほら、落ち着いて………」
俺としても普通に動揺。しどろもどろになりながら、突然泣き始めてしまったアルに声をかけ、その背中を撫でてやる。
水浴びしていたところから全力疾走してきたわけなので、当然俺だけ素っ裸。だから近くにあったデカい葉っぱで股間だけを隠し、泣く子をあやすような作業に従事しているわけだ。
なんだこの絵面。マジ終わってんな。
でも、どうしよう。
おろおろ、おろおろ………。
「アル、女の子だったんだな」
「う゛ん゛………」
「そうか」
とりあえず、彼が―――彼女が、泣き止むのを待ってから。
「わざわざ打ち明けてくれてありがとう。今まで気づかなくてごめんな?」
「う゛ん゛っ………」
ぐすっ、と鼻をすすって涙を拭き、恐る恐る俺を見上げるアルきゅん……アルちゃん。
俺としてはまだまだ戸惑いも大きい。おおよそ「そうではないか」と察せられる要素をあえて無視していたにしろ、このタイミングでのカミングアウトは流石に予想外だったためだ。
というか、アルが女の子だったということは………。
その、さっきの………彼女が、俺の水浴びを覗いていたということには、ある種の事実を示している気がする。
「アル。今回は相手が俺だったから良かったけど、迂闊に男の人のことをつけ回すんじゃないぞ。女の子なんだから、何されるか分からないんだぞ」
「う゛っ……!? う…ん………………」
「よしっ」
ニカッ、と笑いかけてやり、俺はアルに手を差し伸べた。
目元も頬も真っ赤な、可愛らしい泣き顔が俺を見上げる。
「立てるか?」
「うん………」
すっかりショゲてしまったアルの手を引いて、俺は来た方向へと戻る。
着替え、取って来ないとな………。
そういえばずっと素っ裸だった俺である。




