方針、固まる
森の方からアジトに戻った俺とオヤジ。オヤジは忙しい人だ、早々にアジトに引っ込み、何やら書類仕事っぽいことをしなければならないらしい。ああ見えて頭も良い人だ。バカにカシラは務まらん、とは彼の言葉でもある。
俺はまだまだ下働きなので、いつものごとく洗濯にメシの準備にと取りかからなければならない。
「……こういう平凡な生活の中、俺の力が急に覚醒したりとか、あっと驚くブレイクスルーにより視野が開けたりとか、そんなことは現実には無いもんなぁ………」
オヤジとの初めての魔法の修行を振り返り、初日で俺はそんな感想を抱いた。
ここは現代日本からすれば「ファンタジー」に違いないが、そこでの生活はリアルそのものだからだ。
都合よく女神からチートを授かったり、内なる何かが覚醒して主人公パワーに目覚めたりとか、今の俺にそんな都合の良過ぎる展開はない。
どうやら俺には凄まじい魔法の才能……魔法適性があるようだが、それはあくまで「才能があることが分かった」程度で、大観衆に誉めそやされたり、それによってヘンなライバルに決闘を挑まれることもない。
それもそのはず、俺にあるらしい魔法の才能というのを口外して良いのかどうなのか、オヤジ以外の誰かに相談して良いものなのか―――そんなことすら、あのオヤジも持て余している問題のようだったからだ。
彼が他の人間に俺の魔法に関する修行を任せようとしていない以上、俺の方から誰かに対し積極的に魔法に関する相談はしない方がいいだろう。
俺はあくまで「初級魔法がやっと使えるようになった程度の新人」でしかないからだ。
「………ま、こういうのは積み重ねだ」
とにもかくにも、俺にはこの地に骨を埋めるつもりがない以上、なるべく早く独り立ちできるだけの知恵と知識と力を身に着けなければならないのは、確かだが。
弓はおそらく上達するところまで上達した感があるので、狩りに使う以上は腕も鈍らないと判断し、後は剣術と魔法の技能習得、実力の向上を目指すとしよう。




