魔法の修行をすることになった
「魔法だぁ~~?」
オヤジに魔法の指導を乞うべく、直談判。
待っていたのは―――。
「やめとけやめとけ。中途半端な技は身を滅ぼすんだよ。馬に靴を履かせるようなもんだ、要らねぇ要らねぇ」
「えっ」
余りに消極的なオヤジの態度だった。
「………チッ」
粘り強い交渉の末、舌打ちと共にオヤジがようやく重い腰を上げた。
そうかと思えば、俺はオヤジに連れられ共に森の入り口に来ていた。
「魔法は」
「初級がせいぜいですね」
「なら充分だろ」
「えぇ……」
オヤジに自分ができる魔法を教えたら、もう教えることはない、みたいに指導を放棄されてしまう。
水瓶に水を満たせるくらいの水を発生させる魔法、弱めの火炎放射を出す魔法、局所的に強風を起こす魔法、土くれをまとまらせたり散逸させたりする魔法。こういったものが戦闘で有効であると、彼は本気で考えているのだろうか。
「まず言っとくが、魔法ってのは効果や範囲が大きくなればなるほど、多大な魔力を使っちまう。さらに、こいつが一番まずいんだが、何より詠唱が長くなる。んな儀式みたいなもんを、例えば敵がこっちに走って来る状況でテメェはやれんのかって話だ」
「それは……無理ですね」
確かにその辺の茂みに隠れて敵を一網打尽にできるなら大規模な魔法は効果があるが、必ずしもそういった状況ばかりとは限らない。
特に、地で「ファンタジー」を行くこの世界では、例えば魔獣などに跨って戦ったりなどの高機動戦闘においては、発動に時間のかかる魔法は致命的な欠陥を持つに等しい。
結局、一番速度もあり命中させやすく、発動も容易な魔法を多用することになる……と、オヤジはこう言いたいわけか。
「諦めるこった」
「………魔法が一番役に立つと思ったんだけどなぁ」
くるりと踵を返すオヤジ。
俺は魔法こそ何か、戦闘の鍵を握るような気がしたのだが……。
いや、それも、結局は何か、現状で俺自身の飛躍的な成長と強化に繋がる何かを望んだ結果か。
そんなに甘い話はないのかもなぁ。
「ハァ……」
手から炎を出し、辺りの木々の表面を焦がした。
森林破壊とツッコミがあるかもしれないが、この世界は圧倒的に自然が多いので問題はないだろう。
むしろ低木の日照や地面の栄養に資するものとして好意的に―――
「―――おい!」
「うわびっくりした」
去ったと思ったオヤジが、ものすごいスピードで戻って来て、俺との距離を詰めて来た。
殴られるかと思って身構えていたのだが、どうやら違ったらしいと分かる。
「テメェ今、詠唱せずに魔法を使いやがったか!?」
「………………………え」
………確かに。
最初の頃は無理だったが、今では教わった魔法は全て、詠唱無しで実行できる。
だが、例えばアニキ達の内で何人か、炎の魔法とかを詠唱無しで実行できる人間には心当たりがある。
慣れればできるようになるもんじゃなかったのか……?
「な、何か……?」
オヤジの強面を見上げながら恐る恐る尋ねるも、オヤジは唾を飛ばす勢いで怒鳴った。
「他の魔法は!?」
「えっ………と、他の魔法も、今は全部、詠唱しないで使ってたかなぁ、と………」
委縮してしまう。何か悪いことをして叱られる、懐かしい気分を思い出した。
こちらの世界に来てからはそこそこ器用に立ち回れていただけに、中々に久々の感覚だ。
「何かマズかったでしょうか……?」
「マズいなんてもんじゃねぇ……! 無詠唱なんざ、その魔法だけをアホみてぇに使い続けでもしなけりゃ………少なくとも十年は同じ魔法の修行に費やさねぇと実現できねぇ! しかもそれを、各属性の魔法に使えるってのは―――っ!」
何だかものすごい剣幕のオヤジに俺は目を白黒させながら、必死に弁解する。
「あっ、もちろん俺が魔法を使えるようになったのって、そもそもアニキ達姐さん達に教えてもらったおかげでして―――」
必死。恩は忘れてませんよと。あるいは俺が何かマズい態度だったのだとしても、アニキ達に教わったのだから仕方がないと責任転嫁する逃げ道を残しておく。
どうだ……!?
「野郎………………とんでもねぇ才能を隠してやがったな……!?」
「へ……?」
一瞬だけ頭が真っ白になったが、今ようやく分かった。
これ、俺もしかして褒められてる……?
また俺何かやっちゃいました?
……というやつだろう。たぶん。
しかし、素直に喜べない。自慢する気にもなれない。
というのも、こういった特異な部分により、俺が「異物」認定され、このコミュニティから迫害や排斥の対象になるのを危惧してのことだ。
「―――気が変わった」
「へっ!?」
そしていよいよ、オヤジは何か覚悟を決めた男の顔をする。
強面に凛々しい表情でもしているつもりなのだろうが、間近で見るとただただ怖い。
俺、「やっぱり変なヤツ」とか言われて、これから殺されたりしないよね……?
「テメェのこれからの修行は、サバイバルと魔法に充てる! 異論は認めねぇ!」
「な、なんですとー!?」
とりあえずノっておいたが、そもそも魔法を教わるつもりだったので何も問題ないのである。
一応、ほっとした。
……とはいえ、「オヤジってばノリノリなんだから」なんて射に構えているわけにもいかい。
彼の、この反応………おそらくガチである。
どうやら俺に魔法の才能……あるいは適性のようなものがあるらしいことは分かったし、それ自体は嬉しいことなのかもしれないが、オヤジの反応が余りにも前のめり過ぎる。
「まともに眠れると思うな。―――喜べ、テメェがこれから過ごす日々の半分以上は魔法の鍛錬に充てる」
「はぁ!?」
………なるほど、こうなるかぁ。
それにしても、いきなりやる気を出し過ぎだと思うんだよ、オヤジは。
彼の言ったことが本当に実行されるとなれば、俺のスケジュールは進学校からさらに超難関大を目指す学生並みのものになる。おそらく彼らのような勉強時間と同じだけの時間を魔法の修行に充てられることが決まり、俺は当初の思惑とはやや違った方に進むイベントに、戸惑いを覚えた。
「あのぅ……修行をつけてくれるのは嬉しいんですけどもね、その、そこそこ休憩をですね、いただければと―――」
「異論は認めねぇ!」
「……ッスね」
だよね、なんていう絶望と共に、俺は腹をくくるのだった。




