いずれ一緒に連れションを
むっすぅ~っとしたアルがこちらを見ている。
分かりやすく頬を膨らませて。
美少女のような美少年顔でそのような表情をされると、つい頭を撫でたくなってしまうのでやめてほしい。アルきゅんきゃわいいねぇ。
「もしかしてアル、機嫌悪いか?」
「べっつにぃ~??」
「……?」
別に、などと言いながらも、どうやら彼の機嫌は悪いらしい。
彼の視線は、俺達の前を歩くとある人物と俺の間を行ったり来たりしていた。
ドラの背中を恨めし気にチラ見しつつ、俺の方を盗み見るように横目で見ているのが分かった。
「(二人で修行って話じゃなかったのか………)」
アルが小声でそんなことを言うのが聞こえた。
なんだよ、可愛いところあるじゃないか。そんなに二人っきりがよかっ……いや待て相手は男だろ?
いくら美少女のような美少年だとしても、その男らしくカットした短髪が似合わないタイプの美形の彼でも、彼が男である限り、俺はその好意には応えられない。
なぜなら俺は男で、そして異性愛者であるからだ。他をあたってほしい。
「ごめんなアルきゅん。俺、ホモじゃないからさ………」
「ばっ!? ち、ちげーし! 何か勘違いしてんだろお前っ!」
顔を真っ赤にしたアルの反応がどうにもガチっぽそうで、何とも対応に苦慮してしまうな。
「まぁいいからさ。それよりしょんべんしたくならないか? 連れションしようぜ」
「~~~っ!? お、お前とはしないっ!」
「なんだよツレないな」
ただ、なぜかトイレシーンを一向に共有しようとしないアルに疑問を抱いてしまうが、いや待て、俺は俺自身のその思考にこそ疑問を抱くべきだろう。
俺がおかしいのだ。
この世界に来て、この傭兵団の男はどいつもこいつも荒くれで、そんな中で連れションなんぞ日常的なことだから、現代日本で培った俺のデリカシーも、順調に目減りしているのかもしれない。
さながら貯金を切り崩していくように。
気を付けないとな………。
アルも、もしかしたらイチモツに何か不安要素を抱えているのかもしれないし。
一度も、そして誰とも連れションをしたがらないっていうのは……つまり、そういうことではないのだろうか。
そこは、少なくとも魂の年齢的には歳上である俺が、人生の先輩として相談に乗ってあげた方がいいのではないだろうか。
「な、なんだよソウジ! 憐れむような目でウチを見るな!」
「ごめんごめん」
おっと、勘が鋭い。こちらの視線の意味に気付かれた。
まぁ、当面はこちらから踏み込むことはすまい。
彼が自分から相談する気になってくれるまで、生暖かい目で見守ることにしようじゃないか。
「……え、何だよその目」
「生暖かい目ってやつだ」
「生暖かい……目……??」
俺の奇行を目にしたアルが、本気で心配そうに首を傾げていた。




