修行、開始
森の入り口付近にある三方開けたエリアにて。
「……ソウジ。お前、剣は」
「からっきしですね。今まで弓しか使ってなかったんで」
「……そうか」
「なので俺に、アニキの剣を一から叩き込んでほしいっす!」
「……いいだろう」
痩せ型で寡黙なこの男、ドラ。
彼は、俺にとっての「兄貴分・その3」みたいな人物で、これが中々に交流の機会に恵まれた先輩だ。
関係は悪くない。何となく、俺は彼に嫌われていないだろうことが分かるのがミソ。
流石に好かれていると思うほど自惚れてはいないが、ある程度のワガママは聞いてくれると思った。
そこで今回は直球で甘えてみた。俺とアルに剣を教えてくれと。
それを彼が快く引き受けてくれた次第だ。
一応、なぜ彼を師匠に選んだのかについては、「そこそこ親しい」ということ以外にもきちんとした理由がある。
俺の周りの先輩方は、みな才能に溢れた人達ばかりだ。
その中でも、リーダーとしての資質ならニール、類稀な怪力から繰り出される剛剣はモッチ、そして一番鋭く技巧派である剣を使うのが、このドラという男。
リーダーの資質は今の俺に必要はなく、そして怪力は俺達のようなガキの非力な身体ではまだまだ完成には程遠いことから、技を身につけて強さに繋げるならドラが一番最適だと踏んだのだ。
「……アル。お前はどうする」
「う、ウチは……ウチも、ソウジと、一緒に」
「……分かった」
ドラは寡黙だが、いい人だ。モッチとは冗談を言い合ったり、馬鹿にされるとすぐに斬りかかろうとするが、とにかくいい人だ。
さて、そんなドラは俺達後輩に修行をねだられて、満更でもない様子。
鷹揚に頷き、俺達に木剣を放って寄越す。
「……俺の剣は『技』を重視するが、それには最低限の『筋力』は、どうしても必要になる」
「まずは素振りからってことですね! 素振りの型から教えてください!」
「……ああ」
俺もアルも木剣を正眼に構え、そこから大上段に構えたり、ともかく型について―――剣を構える際の姿勢から教わってみた。
これが面白いもので、現代にも剣道の五行の構えというのが伝わっているが、それと似た要素が見受けられたのだ。
もっとも、戦闘の前提となる筋力も前世とは違うし、魔法の使用さえ考えられるとなれば間合いが違うし、間合いが違えば構えも違うわけで。
数ある構えの中でも、俺の理解がいまいち及ばないものがいくつもあった。やはり異世界。
そんなところも不思議で、そして面白いな……と思ってしまったのは、俺の魂が異世界に染まり出している証拠だろうか。




