マダムとアルの隠し事
俺達傭兵団の中ではほとんど唯一、結構な重症状態でも回復魔法で治せてしまえるおばさん―――オヤジのパートナー―――のところで、肩を負傷していたアルを治してもらう。
黒い靄のような、可視化されるほどの魔力を纏っていた黒い魔獣に襲われた傷だ。まさか変な病気なり呪いなりといった、この世界ならではのファンタジーによる害はないだろうなと懸念していたが、どうやらそれは杞憂に終わったようだった。
「はい、終わりだよ! 次からは気を付けな、死んだらあたいだって面倒見切れないよ!」
「あ、ありがとう……」
「アルのケガを治してくれてありがとう、おばs―――」
「あ゛ぁん?」
「―――姐さん」
何だか一瞬、とっても怖い顔で睨まれた気がしたが―――俺にとっておばさんは恩人みたいなものだから、慌てて撤回する。俺がこの傭兵団で拾われた時の彼女の一言が、俺を生かすというオヤジの判断に影響を与えたとも考えられるためだ。
「い、いつまで見てんだよ!」
「……?」
それはそうと、おばさんによる回復魔法をかけてもらう間、アルが裸の上半身で胸を隠すように、両腕で自らを抱きしめていた。
まさか他の負傷箇所があるのかと思ったが、それを言ったら本人には睨まれるし、おばさんには溜め息を吐かれる始末。
何だろうと思っていたら、おばさんとアルは二人だけで医務室の端に立って、こちらをチラ見しながら内緒話をし始めてしまう。
「(……ソウジは知らないんだね?)」
「(い、今さら言えないよ……)」
「(全く、あの朴念仁ったら……)」
「(姐さんは言わないでよ?)」
「(言わないわよォ! それは野暮ってもんじゃないかい。あたいは生暖かい目で見守らせてもらうさね)」
「(もぉっ!)」
………二人で内緒話をしている……のだが、その会話は俺には聞こえている。前世……元の世界でも、こういうことがあったんだよな。なぜか俺は耳が遠いヤツだと思われがち。
内緒話、全部俺に聞こえている件。
まぁ、こういう場合は聞こえないふりをするのがマナーだろうから、俺もまた知らんぷりをするしかないんだが。
そもそも「さては俺に何か隠し事してますね?」とか、俺が言えた義理ではないのである。俺こそ、別世界の人間であることをひた隠しにしているからな。この世界に転移した時に身に着けていたブカブカのワイシャツにスラックスは、ほとんど当時の状態のまま、今もこの洞窟内のとある場所に保管してある。
この世界の皆にとっては珍しい衣類……なんだろうが、最初こそ珍しがられただけで、格好としては皆には余りウケなかったんだよな。袖の無い革ジャンとか世紀末な格好の方がウケがいいのは野蛮すぎるが、文化の違いにあれこれ言うのも無粋だろう。
「アルの傷が治ったんならそれでいいんですけど。それじゃあ俺は雑用しなきゃなんで、これで失礼しやすね。姐さん、アル、それじゃ」
「「あ―――」」
何か言いかける声が聞こえたが、俺はそそくさとその場を後にする。そういえば、狩りに出る前にしていた洗濯が中途半端なままだった。急がないとな。仕事はきっちりこなしましょう。




