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【毎日更新】ユウシャ・イン・ワンダーランド ――ゼロ・ローグ―― ~異世界に来た元サラリーマン、異世界ライフのスタートは野盗の群れでした~  作者: むくつけきプリン
ライフ・ライク・ローグ

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黒魔獣(2)

「何だあれは……!」

「黒い影に覆われた……いや黒い毛並みか! あんな魔獣、見たことないぞ!」

「なに、あれ………」

 ニールニキもモッチもアルも剣を抜き放ち、決して油断はないが驚愕はしていた。

 俺も同感だが、俺の驚きは彼ら以上だという自信がある。

 黒い獣。

 大きな、タテガミの無い、黒いライオンのような………大きな、黒い虎のような。

 黒ヒョウ?

 いや。

 あれより頭部は大きく、顎が発達しており、チラリと大きな牙が覗いている。

 黒サーベルタイガー……?

 イメージとしてはそんな感じか。

 ……しかし、単なる毛並み以上の黒を纏っている。

 もやもやと。

 見れば見るほど視覚が幻惑され、眩暈を催すほどの気持ち悪さ。あれは―――。

「こっちへ来るぞ!」

 ソレは、先程茂みの中へ隠れていた時、アルの放った当てずっぽうの矢が当たったのだろう、後ろ脚を負傷しているようだった。

 というより、アルの放った矢が後ろ脚に刺さったままだ。

 さっきは鳴き声も聞こえなかった。ただ、攻撃を受けて茂みから出て、俺達を敵と認識して襲いかかるかのように―――。

「ソウジ!」

「へい!」

 とにもかくにもエイムだ。俺は弓に素早く矢をつがえ、一瞬で黒い魔獣―――黒魔獣と仮称―――に狙いを定める。決して外さない。

 決して外さない自信はあった、が―――。

「アル! 伏せ―――」

「ぐぅっ!?」

 俺の前方にいたアルに伏せろ、などと言う間もなかった。つまり、俺の矢が黒魔獣の頭部に放たれる間もないほどだ。

 先程は茂みの中にいたあの黒魔獣に先制の矢を放ったアルが、一瞬で組み伏せられた。矢を放ったばかりで、行動が一手遅れたのは事実。しかしその一手で、いきなりピンチ。これは流石に想定外の速さ。普通の獣の速度ではない。判断も行動も何割か早く、速い。

 恐るべき速さだが―――。

「クソが!」

「――のヤロッ!」

 ニールニキとモッチ、流石、アニキ達。彼らの行動も早い。もう黒魔獣に斬りかかろうとしていた。

『ガァァァア!』

「「うおっ!?」」

 しかしここに来て、初めてその黒魔獣は鳴き声を上げた。心の底から震えるような、おどろおどろしい鳴き声。ライオンの鳴き声にある起伏をさらに大きくしたようなものが、一瞬だけあのアニキ達の身体さえ、強張らせる。

 なんだ……!?

「チッ―――!」

 何はともあれ、アニキ達の様子がおかしいことは一瞬で分かった。

 既に弓に矢をつがえていた俺は、姿勢を硬直させたアニキ達の隙間、アルを組み伏せながら周囲を威嚇するあの黒魔獣の頭に狙いを定め―――

 撃つ。

「ソウ―――」

 アニキ達が、俺に援護を要請するまでもない。

 既に放たれていた矢は、ヒュンッと鋭い風切り音を上げ、アニキ達の間を抜けて黒魔獣の頭部に刺さる。

 スコンッ、と、どこか現実味の無いほど心地の良い音が聞こえた。

『ガァァアッ―――』

 頭部、その眉間に矢を受けた黒魔獣は、断末魔の絶叫を上げてから、どさりと倒れる。

「「「………」」」

 呆然としながら、その様子を眺めるアニキ達+アル。アルに関しては、その胸に手を当てて、必死に動揺を抑えているようでもあった。

「無事っすか!?」

「「………」」

 彼らに駆け寄ると、苦笑しながらニールニキとモッチがこちらを振り返る。

 どうやら黒魔獣は死んだらしい。

 見れば、黒いもやもやとしたものが取れて………ただの、黒い毛並みの、顎のデカい虎が横たわっていた。

「………ぁ」

 アルはようやく我に返ったように、服に着いた土を払って立ち上がった。

「た、助かった、ソウジ………」

 珍しく……というほどでもない。先の遠征を境に態度を軟化させたアルからは、素直に礼を言われた。

「ケガがなくて何よりだよ………ケガ、無いよね?」

「えっ。あ、ああ………」

 アルは興奮からだろう、頬を若干赤らめながらブンブンと首を縦に振る。

「どうする……?」

「コイツの死体を持ち帰る。オヤジに報告して、判断を仰ぐしかねぇ」

 モッチに問われ、ニールニキがそう決断した。幸いにして、アジトまではそう遠くない。この黒魔獣はそれなりにデカいが、デカイノシシのデカ個体ほどじゃないので、持ち帰ることは可能だろう。

 ここがアジトからそう遠くない場所であるということは助かったが、同時に、それはそれでまた別の問題が浮上する。

「こんなの、今までは………」

 モッチが黒魔獣の死体を見て、愕然とした様子で呟く。

 森に、変なのが湧くようになった………とかいうわけじゃ、ないよな……?

「なんにせよソウジ、手柄だ。よくやった」

「……いえ。誰かが欠けても、きっと、さっきのは上手くいきませんでしたよ。誰が死んでいてもおかしくなかった………」

「ヘッ。相変わらず謙虚なやつだな!」

「いだだだ! だ、だから痛いですってニールのアニキ!」

 とりあえずアニキにヘッドロックされ感謝の意を表明されてから、俺達はアジトへ戻ることにした。

 食料を狩っておきたいところだが必須というほどでもないらしいし、今はこちらの用事が先か。

「どうした、アル。戻ろう」

「………えっ。あ、ああ、そうだな」

 ぼうっと突っ立っていたアルを呼び、俺は彼の手を引いて歩き出す。

 前までなら振りほどかれたに違いないが、今のアルはなぜか大人しく、されるがままになっていた。

 アルきゅんのお手々、小さいねぇ。可愛いねぇ。

 おっと、これ以上はキモ過ぎるから自制しよう。

 それにしても………。

「……? アル、俺の頭に何かついてるか……?」

「い、いや………」

 どうにも様子がおかしい彼を見ると、その度に目が合う。俺の後頭部か顔に何かゴミでも付いているのかと思ったが、どうにもそうではないらしい。

「その、モッチ、俺が持つよ」

「いいよソウジ。こいつそこそこ重いから、俺が持つ」

 ちなみに黒魔獣の運搬役は、太っちょモッチだ。怪力枠は頼りになるぜ。

 先頭を歩くニールニキはやはりリーダーらしく、周囲に油断なく目を配りながら俺達の進路……というより帰り道を選んでいる。

「ソウジ。運ぶのはモッチに任せて、いいからお前は周りを見とけ。異変が見えたら教えろ」

「了解」

 ………何やら、ニールニキの中で俺の扱いが少し変わっているらしいな。

 戦闘力や個人の経験値に照らしても、俺とアルに荷物持ちをさせた方がいいと思うのだが……目を頼りにされてもね。

 ニールニキがこちらを振り返り、俺とアルに自らの差配を伝達する。

「アル。自分で歩けるだろ、自分で歩け」

「りょ、了解……」

「ソウジ。お前は弓矢だ。常にいつでも、どこでも撃てるようにしとけ」

「了解」

 彼は俺の目と、弓の腕を頼りにされているらしい。光栄なことだが………。

「………? アル……?」

「………」

 俺の背中を指でつっつかれた気がして後ろを振り返るが、アルはそっぽを向いてわざとらしく視線を逸らしていた。

 子供みたいな振る舞いを自分で恥じているのか、顔が赤い。

「油断しないようにな」

「してない」

「そうか」

 とにもかくにも浮ついた気分でいないよう注意をするだけして、俺も周囲に気を配り始めた。

 ちらりと視界に入る、モッチに引きずられる黒魔獣の死体。

 あれは………少なくとも、あれがこと切れる前の姿は、俺がこの世界に来る前、直前に、元の世界で夜空の大穴から降り注ぐ、あの夥しい数の獣の一匹にも見える。

 あるいは、俺の目の前に姿を現した、黒い虎のような……いや、あれも顔つきは犬に似ていたから、厳密にはこの黒魔獣とも違う魔獣なのだろうか。

 ………待て待て。魔獣だって? 俺のいた世界に?

 ………………???

 どういうことだってばよ?

 そういえば、あの時のあのロリっ子は、気になることをいくつか言っていたような気がするが―――ダメだ。当時は酒も入っていたし、いまいち自分の記憶に自信が持てない。

「ソウジ……?」

「――ハッ!?」

 あれこれ考えていたところを、横からアルに顔を覗き込まれてはっとする。

「大丈夫か……?」

「ああ。それより、アルも周囲の警戒をお願いできるか?」

「分かってる」

 とにもかくにも、色々な謎は解けるどころか深まるばかりだ。

 せっかく異世界に来たのだし、俺にもあらゆる問題を一発で解決できるような、冗談みたいなチートをくれよ。女神とか、まだ会ったこともないのによ………。

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