波乱の遠征も終わり
魔法でチョロチョロと水を作り出しうがいをした後、酸っぱさの消えた口で皆のところに戻る。
すると俺達を襲ってきた野盗の一人を尋問中だったアニキ達から離れたところにいたアルきゅんがこちらを振り向いた。
「大丈夫か、ソウジ……?」
おや。アルきゅんが俺に優しい。
「大丈夫だよ。ちょっと気持ち悪くなっただけだな」
「よかった」
そう言って、ほっと胸を撫で下ろすアルきゅん。心なしか、その振る舞いがいつもより穏やかな気がする。
「心配してくれてたのカナ?」
「……っ! ち、ちがわい!」
違うからな、と言ってそっぽを向くアルきゅん。ほのかに赤らんだ顔も可愛らしかった。
(……ん? 可愛らしい、だと……?)
人間というのは不思議なもので、自分に好意を向けてくれる相手には好意で返してしまうもの。
アルきゅんのこの態度が好意とまでは言わないが、それでも今までのツンツンした態度が鳴りを潜め、俺に対し”普通に”接してくれるようになったら、途端にアルきゅんのことが可愛く思えてきた。
いや、俺はホモじゃないが。
確かにアルきゅんは中性的な顔立ちというか……いや、ちょっと女の子っぽい顔立ちだとは思う。余りこういうことを言うのもどうかとは思うが、短髪はそれほど似合っていないように感じるのだ。
「な、何見てるんだよッ!」
「失礼失礼」
アルきゅんをあんまりジッと見ていると思春期のヤンキーばりにブチ切れるのは今まで通り。
楽しく話せたので、野盗を尋問中のアニキ達の方に行ってみよう。
「―――ゆ、指輪じゃないだと!?」
と、アニキ達の背中越しに野盗の驚愕する声が聞こえてくる。
「じゃあキサマらは、いったい何のために―――」
「「「???」」」
アニキ達は互いに顔を見合わせ、首を傾げた。
「ではただの野盗崩れか!?」
「てめぇらも野盗だろうが」
「一緒にするな! 私達は―――」
どうやらニールニキと野盗の間で議論が白熱しているようで、拘束されたまま身を器用によじり、ニールニキを見上げる格好で、野盗は必死に叫んでいた。
「こんな、ゴミ同然の者共にっ……」
ぎりりっ、と奥歯を噛みしめるような、苦虫を噛み潰したような表情をスカーフの裏で作って、野盗は叫ぶ。
声の限り、命乞いとは思えない罵詈雑言を―――
「さっさとこの縄を解け! このゴミど―――」
「うるせぇ」
―――最後まで言い切ることはなかった。
地面に転がる野盗の胸の辺りを、音もなく、ニールニキの剣が貫いていた。
「か………ハッ………………」
野盗は口から少量の血をこぼしつつも、傷口から地面の上に流れ出る血もそのままに、動かなくなった。
ニールニキが最後に、男の両目を剣で潰してみることで彼の絶命を確認していた。
「いいのか? まだ色々と聞き出せたかもしれないのに」
決して野盗を庇うわけでもなく、まだ利用価値はあったのではと太っちょモッチが声を上げる。
「こういう手合いはそう簡単には口を割らねぇよ。偽の情報で混乱させられたりするリスクと聞き出す手間を考えりゃ、早めに殺しちまった方がいいんだ」
ニールニキは大して興味も無さそうに応え、剣に付着した血を払った。極めて合理的だな。
「このぶっ壊れた、人の絶えた村はちとおかしい―――ま、想定外の事態ってやつだわな。おうおめぇら、アジトに戻るぞ!」
「「「「へい!」」」」
何だか意味深な言い方だった気がする。とりあえずこの部隊のカシラがそう言って方針を決めてしまったので、俺を含めて皆がテキパキと動き出す。この切り替えの早さは流石、荒事を生業とする者達だと思う。
「………」
最後まで生き残っていたが、たった今さっき死んでしまった最後の一人、既に息絶えた野盗の男を見る。
この世界で、俺が属する傭兵団以外の人間を見るのは何気に珍しいから、もう少し外の世界の話や世の中のことについて話してもらいたかったが………アレは話を聞くとか、情報を仕入れるとか以前の問題だったな。
俺達も俺達なら、野盗も野盗だった。この結末はある意味で妥当なものだったのだろう。
結果として言いがかりで襲われたようなものだが―――その辺も気になる。ニールニキは淡々とした様子で俺達を率いているが、つまり今回、あるいは傭兵団そのものが、外部勢力と何らかの問題を抱えた瞬間かもしれなかった。
「おいソウジ、早く行くぞ!」
「………ああ」
アルきゅんに呼ばれて歩み始めながらも、俺はちらちらと振り返って野盗の死体を眺めた。
ニールニキの殺し方は俺の目と心に優しい……というより、負担が比較的マシだった。
ああいう風に相手の身体の損壊を最小限にとどめるようなやり方で戦えば、俺も多少はこの世界に、荒事に、順応できるだろうか。
それでも、余程の危機的状況でもない限り、人殺しはしたくないなと思ったけれども。




