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【毎日更新】ユウシャ・イン・ワンダーランド ――ゼロ・ローグ―― ~異世界に来た元サラリーマン、異世界ライフのスタートは野盗の群れでした~  作者: むくつけきプリン
ライフ・ライク・ローグ

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ワンダウン

 頭の中にちらつく、よく見知った少女がミンチとなった死体。先程見た、見知らぬ少女の片腕。

 それら恐ろしいイメージを振り払うように、俺は背負っていた弓矢を捨てていた。

「―――」

 思考を切り替え、今とるべき行動を模索する。

 剣も、そしておそらく追い詰められれば魔法さえ使うことが予想される敵が、この距離(レンジ)―――彼我の距離、およそ二十メートルを切る。一射一射で矢をつがえなければならない弓矢では、手数も即応力も圧倒的に足りない。

 そして一射ごとに確実に相手を無力化できるわけでもないのだ、近・中距離の対人戦においてここまで不確実な武器はない。

 加えて、俺が普段から使用しているのは、あくまで狩猟用の弓―――魔物(特に”魔獣”と呼ばれる大型)を相手にするのに特化した弓―――であり、俺が身に着けたのは、そのために上達した狩猟用の技術(スキル)のみ。これでは、到底太刀打ちできるものでもない。

 では、どうするか。

「―――」

 初めてデカイノシシと対峙した時、一太刀すら浴びせられなかった剣を、俺は腰からスラリと抜いた。

 日頃から、使わないくせに手入れだけは欠かさない、一本のナマクラだ。

「シッ―――」

 野盗の男がこちらの眼前に迫る。気合と共に剣を振り上げ、俺の左肩の辺りから斜め右下へと、袈裟切りに振り下ろそうとした。人質はアル君にしようと思ったのだろうか、二人とも殺す気か。何にせよ俺は殺す気のようだが、生憎とこんなところで死んでやるわけにもいかない。

「―――何ッ!?」

 ガギンッ、と思いのほか重い音がして、俺は男の剣を寸前で受け止めていた。

 一つ想定外があるとすれば、向こうの小太刀ほどの長さの刃物に、かなりの重量が乗っていたことだ。

 俺の片足が、黒く焦げた地面にズンと沈み込む。

「キサマ―――」

 何を言おうとしたのかは知らないが、男は俺に二太刀目を浴びせるべく、こちらの剣を弾いてから、再び剣を袈裟切りに振るう。

 慎重な性格なのだろう、男はもう一方の手を腰の後ろに回し、そこからも小太刀を抜いて二刀流。

 一瞬の時間差で、俺の目の前に二本の刃が迫る。

(あ、終わった―――)

 本当なら、ここで終わっていたかもしれない。次の瞬間、俺の首が飛んでいてもおかしくなかった。

 ………けれども、そうはならなかった。

 そんなことにならないよう、全力を尽くした。

 ハルカに、そして養親に、そしてそして、この世界で俺を拾ったならず者たちに、俺は生かされた。

 俺は、いつだって誰かに生かされてきた。

 だから。

 こんなところで、死ぬわけにはいかないんだ。

(―――終わった、なんて思うわけねぇだろ! このタコスケェ!)

 俺は片手に隠し持っていた、背中に矢筒を背負うための紐を空中に投げる。

「【緊縛(バインド)】ッ!」

 ほんの一瞬のことだったが、俺の()()()()()()()()に合わせ、紐は相手の手首に絡みつくかのような動きを見せた―――ような気がした。

「―――ッ!?」

 男は大慌てで攻撃の姿勢をキャンセルしようとした。こちらに振るわれる刃の軌道がわずかに鈍る。

 そして、俺が投げた紐は、向こうの両手に絡みつくかのように、空中で踊るように動きながら―――()()()()()()()()()()()()()()。これまた、見事に。

 ―――バカなっ!?

 野盗の男は、表情を半分も隠すスカーフの裏でそう言いたげだったが、もう遅い。

 俺がガキだからって油断したのだ。魔法も使わず、即座に無力化できると判断した。あるいは攻撃に関しては、その腕に相当の自信があったのかもしれない。

 俺は子供ながらに、今までの雑用で鍛えに鍛えられた腕を振るう。切れ味は良くも悪くもないナマクラの刀身の、腹の部分で、男の下顎から首にかけての辺りを殴った。

 ガヅンッ。

 これまた思いのほか重い手応え、重い音。

 とても人体で発生して良い音じゃないが、とにかくそんな怖い音を出しながら、男の顔がブレるように動き―――。

「ガッ―――……」

 剣の腹で強く殴り飛ばされた男は、白目を剥いて、昏倒していた。

「………。やった………」

 肩で息を吐きながら、数瞬の間だけ警戒は緩めず観察する。安堵がないとは言わないが、それ以上に恐怖心がある。俺は魔獣しか狩ったことがないのだ、当然である。

 どうやら、倒れた男に起き上がる気配はないようだと分かった。

 ………いや、死んでないよなコレ?

 異世界にしては地味な決着のつき方だが、というか現実世界だったら普通に暴行・障害事件だが………殺人でないことを、祈りながら。

「おいマジかよ……でもさっきヤバい音したし、もしかして………」

 大丈夫か?

 なんて実に今さらな心配をしながら、俺は倒れた男が死んでいないことを、呼吸の有無や心拍で確認する。うん、大丈夫。

 そしておっかなびっくり、相手の手足を紐で縛った。

「ほどけませんように―――」

 この世界ではこんな紐の拘束力がどの程度の効果を持つかは知らないが、まぁ、コイツが目を覚ました時に時間稼ぎくらいにはなると信じて。

「………………………………お、お前……」

「?」

 野盗の男の身体を前にしゃがみこみ、拘束の仕上げを確認する俺の背後から、震える声が聞こえてきた。

 振り返るとそこには、真っ赤な顔をした短髪のボウヤの姿があった。

「お、お前、やる、やるじゃ、ね、ねぇか………」

「………」

 ……褒められた。いや、認められた……のだろうか?

 というか、ボウヤに真っ赤な顔で言われてもなぁ。

 これが妙齢の美女とかだったら、ゴクリと喉の一つも鳴らして、平静を取り繕った謙遜でもしたかもしれないんだが……世界は非情である。

 彼女ができてもただの童貞でしかなかった俺に、そんなウラヤマケシカラン巡り合わせは分不相応なのかもしれない。

(……ん? うわ、危ねぇ! 俺が前に出て良かった!)

 また、とある重大な事実に気付いて、俺は今さらながらに自分自身の判断の正しさを実感することとなった。

 アル君……なんと、なんと! 彼の片腕は未だに、剣の柄を握りしめていたのだ!

 剣も抜いてないのかよ! やべぇ!

 俺が前に出て、この野盗崩れを殴り倒して正解だったっ……!

 かなりギリギリだったが……一歩間違えたら、本当に二人とも死んでいたよな、コレ。

 とはいえ結果的に俺の判断は大正解。魂の年長者(?)としての行動は、実を結んだわけである。

「はぁ……」

「な、なんだよその溜め息は!?」

「何でもないよ……」

 安堵の溜め息なんだが、まぁ呆れもある。

 呆れに関しては、自分自身に対してのものだ。この世界では子供も普通にサバイバルするものだと、大人びているとばかり思っていたから。何だか、自分のそんな思い違いを叱られた気分だ。

「……それより向こうが危ないから、俺達も加勢しようか」

「お、おう……そうだな!?」

 正直、いざという時にこのチキンなアルきゅんがどれだけ安全を確保できるかがキモだ。気を付けながら、アニキ達のところに俺は向かった。

 これで一応は二人差の人数有利。多少は形勢としても有利になるはず、後は位置取りと―――と、慎重に近づいて行く。

 ……と、言うまでもないことだが。

 俺は今、どうかしているのかもしれない。

 淡々と現状を分析しながら、この足が危険地帯に踏み込むのをやめないのだ。

 もしかしてこれ、行かない方がいいんじゃないの、と思わなくもない。今さらだが。

 けれども、俺の足は止まらない。

 拾い直した弓を構えながら、いや、これは正しいのか、と今さらながらに自問自答。

 やはり、俺の足は止まらない。

「………―――」

 俺は弓に矢をつがえ、引き絞る前の予備動作に入った。

(頭か胸に入れば殺してしまう。腹部でも当たり所が悪ければ致命傷。しかし腕と脚では効果も限定的過ぎる。肩かももに当てるのが良いか―――)

 視線の先で、アニキ達が戦っているのを俺は不安な気持ちで眺め、アニキ達の相手にしている三人の内、誰から狙って先に戦力を削ぐか―――悩んでいたのだが。

 どうやら、そう迷う必要はなかったようで。

「――そうらッ!!」

「――ッ!?」

 キィンッ、と音がして、ニールニキが相手の小太刀二刀流を弾いた。

 続けざまに振るわれた剣が、相手の胴体を袈裟がけに捉える。

 あ―――。

 顔をスカーフで隠した野盗の一人が、ニールニキの刃によって。

 斜めに、綺麗に、真っ二つ。

「………………………………何だよアレ。殺しちゃったよ。てかグッロ……」

 まるで躊躇はなかった。

 そして断面こそ綺麗なものだったが、斬られた野盗の身体からは内臓がこぼれ、血が噴き出し、そこら中を赤い血だまりにしていた。返り血を腕と脚に浴びたニールニキの姿がこの上なく猟奇的で殺人的だ。

 そして、そんなニールニキの勝利が、他にも伝播したのだろう。

「――らぁッ!!」

「――死ね」

「「――ッッ!?」」

 わずかに動揺した野盗共の隙を見逃すモッチ、ドラのアニキ達ではない。

 呆然とする俺の視線の先で、アニキ達の戦闘はどれも似たような結末を辿った。

 恰幅の良いモッチの横薙ぎに振るわれた剛剣が、男の腕を切り飛ばしながら、その心臓に到達、さらに横に抜けて、胴体、それも胸部の辺りを水平に両断する。

 痩せ型だが強者の風格のあるドラの振るう剣が、目にも止まらぬスピードで敵の首を()ねる。

 ―――すなわち、俺達傭兵団の勝利。

「ふぅ………どうなることかと思ったな」

「口ほどにもないな」

 モッチとドラが剣の血を払いつつ、周囲を油断なく観察する。

「――おう、いいぞ! 他に人の気配はしねぇ!」

「「「「!」」」」

 ニールニキの合図で、ひとまず俺達は戦闘モードを解除した。

 後には、野盗どもの死体……と、一人、気絶しているだけのやつが残った。

「でかしたソウジ。殺さないでいたんだな」

「すげぇなお前、人も生け捕りにできるのか!」

「……フッ。やるな、ソウジ」

「えぇ、まぁ………ありがとうございます………」

 アニキ達は目に見えて喜んで、俺を口々に誉めそやしてくれた。

 かつてない持ち上げに戸惑う俺だったが………内心はフクザツ以外の何物でもない。

 本当は、人殺しが怖くてできなかっただけだ。

 前世の……俺の元いた世界で培った倫理観が、どうしても邪魔をする。

 幸いにして、それは生死を分ける要因ではなかったものの。あの土壇場で、もしそのようなことを気にして暴力そのものを躊躇していれば、俺もアル君も死んでいた。今回ばかりは自分を褒めてやりたい。

 ともすれば、初めての対人戦での快挙。デカイノシシを前にブルっていた初の狩猟とは正反対。

 図らずも、初狩猟で失敗した経験が、今回に活きた形だ。

「それもどうかと思うけどな………」

 つくづく、俺には向いていない生活である。

「おいソウジ、アル。お前らは死体の方を漁ってこい。こいつらがどこのモンなのか検分しろ」

「「了解」」

 ニールニキの指示で、俺とアル君がいったん離れる。

「モッチ、ドラ。剣を構えとけよ」

「へい」

「了解だ」

 俺が昏倒させ、拘束した男を、アニキ達が起こそうとし始めたのが分かった。

 ニールニキ、モッチ、ドラの三人のアニキ達は、おそらく野盗の生き残りに尋問を始めるのだろう。

 どうせロクな聞き方じゃねぇんだろうな。余り気持ちの良い光景は繰り広げられないだろう。そのくらい俺にも分かる。

 そんなわけで、俺は自分の作業に集中することにした。

「うげっ………こっちの方が気分悪かったかもな………」

 切断された断面も新しい、野盗どもの死体漁り。心臓も止まった身体が赤い血だまりに浮いているような見た目の中で、武装と衣服を剥ぎ取る作業。

 こちらを担当したことを、今さらながらに後悔し始めた俺だった。

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