焚火交流
遠征二日目。
今日も今日とて目的地には着かない。あと一日と考えれば今日がちょうど折り返しになる。
残念ながらアジトから持って来たお弁当(干し肉)が底を尽きたので、今日の野営は狩りをしながらだ。
「ソウジ! そっち行ったぞ!」
「応ッ! 任せてくださいよニールのアニキ!」
俺は獲物を視認するやいなや弓に矢をつがえ、目標を狙いながら構えて引き絞り、当たると確信できたタイミングで手を放す。
矢はヒュンッと控えめな風切り音を上げながら飛んでいき、目標の頭部を頭蓋骨ごと貫き、刺さった。
速射貫通。
ぱたりと地面に倒れたウサギ(?)は、眼球ごと脳天を矢に射抜かれ、めざしのようになっていた。
「ヒュゥ」
俺の背後で気配を消していたモッチが口笛を吹く。
「もう新入りだからとバカにできないな。ソウジ、めちゃくちゃ狩りが上手くなってないか?」
「そうかな? ありがとう、モッチのアニキ……」
照れくさくなりながら頭をかく。ニールニキは分かりやすく褒めてくれることはほとんどないから、モッチのように素直に褒めてこられると反応に困ってしまう。
「血抜きは俺がやっとく」
「ありがとうドラのアニキ」
俺が仕留めたのは一匹のウサギだ。
各自、一、二匹ずつ獲物を持ち寄り、焚火の側で血抜きだの皮剥ぎをする。工程には数時間とかかることも多いため、野営で狩猟により食事を準備するとなれば、夕方から夜にかけて忙しくなる。
作業をしながら、もっと干し肉や干し芋なんかを多めに持って来ても良かったななどと話し合う。
肉を火にあぶる段になると、焚火を五人全員で囲んでの歓談の場だ。
「最初はイノシシに腰抜かしてたらしいのに、今じゃ弓も百発百中か。ソウジもすっかり慣れたみたいだな」
「アニキ達のおかげっすよ」
「ケッ。白々しい………」
モッチに褒められる俺を見て、舌打ちと共に小声で嫌味を言うアルきゅん。かわいいねぇ。でもこの場では空気悪くなるし気を遣わせるから、後でこっそり俺にだけ言ってほしいもんだ。
「……ソウジ。お前、弓の手入れはしてるんだろうな」
「はい、そこは抜かりなく。道具の手入れを欠かさないってのも、アニキ達の教えですからね」
「ならいいんだ」
「そういえばドラもソウジのことやたら気にかけてるが……まさか自分も面倒見ようってクチか? オヤジも目をかけてるもんなぁ」
「違う。俺はただ………こいつが新入りであれ、オヤジの団にいる以上、足手まといがいると困ると思ったからだ」
「はいはい、そういうことにしとこうかねぇ」
「モッチ。お前は俺にケンカを売っているのか?」
「ちがうちがう!」
どうやら恰幅の良いモッチと痩せ型のドラだけれども、ケンカともなればドラの方が強いのか、易々と引きさがるモッチ。
あるいは彼は空気を読む能力が高いのかもしれないけれども。
俺も、この傭兵団にはもう半年いるが、各人のパーソナリティについては知らないことの方が多いな。
団員の間でも、ここに来るまでの経歴や生い立ちなんかを互いに尋ねるのはご法度、暗黙の了解。過去を気にすること自体、誰もが忌避していることだけれども、仲良くなった人間とはそういうことも話せるようになるといいなと思った。
「ケッ。なにニヤニヤしてんだ、気持ち悪ぃ」
温かい気持ちに浸っていると、アルきゅんからありがたい指摘をもらった。
まぁ、このアルきゅんともそのうち仲良くなれる気はしているので、何も気にならないのだが。
「おっと。アルきゅんゴメンねぇ、ちょっと思い出し笑いしてたんだ」
「そのアルきゅんってのは何だよ!? マジ気持ち悪ぃ! ケンカ売ってんのかテメェは!」
可愛い反応が少年ぽくて、何だか昔を思い出して懐かしい気持ちになった。




