宴も終わり
信じられないことに、俺にはこの状況、このシチュエーションってやつに、まるっきり耐性がなかった。
そんな童貞じゃないんだから………いや童貞だわ。童貞だったわ俺。
なんで女生徒の交際経験があるのに童貞守り通してんの……?
自分の貞操観念の高さは誇れない。要するにチキンだっただけだから。
俺も自分で自分のことをよく分かっている。
女性が怖い癖に、女性と付き合っていた部分がある。どこかで言い訳をしたかったんだと思う。
女性と付き合っている俺が、女性が怖いわけはない―――と。
だから、いざそういう場面になった時、思い切れるわけもない。
女性に迫られたらどうする? どうすればいい?
応える、応えない、拒絶する、拒絶しない、はぐらかす、はぐらかさない―――。
しかし、そんな風に気負うこと自体が無意味なのだった。
近づくエレンの唇。
しかし、彼女と唇が重なろうかというタイミングで、視界が一瞬暗転し、そして開けた。
「―――はっ!?」
気付けばチュンチュンと小鳥の鳴き声が聞こえる朝に。
周囲には、地面に寝転がった酔っ払い達のだらしない寝姿。
「………………エレン……?」
気付けば俺も地面で寝ていて、すぐ隣にはぴったりと寄り添うような姿勢で寝息を立てる、エレンの姿が。
すぐ側には俺達が昨晩まで飲んでいたテーブルがあり、空になったグラスや皿が放置されていた。
「夢か………」
夢でしたとさ。
「ったく………」
変な夢を見てしまった自分に呆れかえってしまう。なんて夢を見てんだ俺は……。
「すぅ……すぅ……す……むへ………すぅ……すぅ………」
「どんな夢を見てるんだろうな」
エレンは寝息を立てながらぐっすり寝入っている。余程楽しい夢でも見ているのか、時折むふふと笑ってるし。
寝息を立てるエレンの髪には、俺が成人祝いに送ってやった髪飾りが光っていた。
「ま、いっか」
俺は起きて、軽く伸びをした。さくばんはしこたま飲んだが、二日酔いにもなっていない。
偶にはどんちゃん騒ぐのも、悪くないなと思った。
「おはようございます、ソウジ様」
「おはようございます」
いつもより少し遅い時間の出勤だろうと思われるが、ギルドの職員のお姉さんと他の何人かの同僚達は、出勤するやいなや宴の席を片していく。
空のジョッキや汚れた皿やらテーブルやらイスやらを、テキパキと。惚れ惚れする手際だ。意外と毎度のように、何かと理由を付けてこうした催しは開かれているのかもしれないと思った。
「手伝いますよ」
「大丈夫ですよー」
腰を浮かしかけた俺の申し出をやんわりと、しかし即座に拒否するお姉さん。
本当に大丈夫かな、と躊躇する俺の方を見て、悪戯っぽく笑う。
彼女が見比べるのは、俺と、そして俺の隣でまだ寝息を立てているエレンだった。
「もう少しごゆっくりなさってください。今回の主賓なのですから」
両手にジョッキを計八つ持ったお姉さんは、そう言って食堂の方に歩いて行ってしまった。
「………」
俺はお姉さんの言葉に甘えて、少しの間だけ気怠さに身を任せ、ぼうっとすることにした。




