遠征デビュー
「おいソウジ、遠征だぞ!」
「遠征……ですか?」
もはや俺の世話係と言っても良いくらい面倒を見てくれている(本人は顔を顰めて否定するであろうが)ニールのアニキに、遠征に誘われた。
「ど、どちらへ行くんです……?」
「廃村つってたな。明日から遠征開始、着いたらそこの村で品物の回収だって話だ。今晩は早く寝とけよ」
「はい」
というわけで、明日、俺は遠征部隊に組み込まれ、出立することになった。
んで、当日の朝。眠気を引きずらないように早く寝た甲斐あってか目覚めぱっちり。
ニールのアニキについて行き、他の三人と合流して洞窟前を出発。目的地の廃村まで歩くことに。
アジトから三日ほどの距離らしく、なるほどそりゃあ遠征だねという距離だ。遠征のメンバーは皆大きな背嚢を背負っている。
「いいか、アジトを離れた途端に俺達ゃよそ者なんだ。面倒事を起こさないよう細心の注意を払え。新入りのお前は特にな。分かったかソウジ」
「へ、へいアニキ!」
くせ毛の頭をわしゃわしゃと掻いて、ニールニキは周囲に目を配りながら歩いている。
その後ろをついて歩く、俺、モッチ、ドラ、アルの四人。
ぶっちゃけ俺の他三名とは、俺も何度か会話をしたことはあるものの、別に仲が深いわけでもない。
雑用仲間ではあるし、傭兵団の皆とは家族みたいなものだが、だからこそ意識的に仲良くしようといったような間柄ではなかった。
そもそも、皆結構忙しいんだよな、自分の仕事で。こんな話を同郷の人間が聞けば意外に思うかもしれないが、寝る前くらいしか大部屋では一緒にならないわけで。個室をあてがわれていない、大枠で言えば若輩に分類される下っ端はそんなものである。
五人でぞろぞろと進み、アジトのあるのとは別の山の中を進む。
鬱蒼とした森林に覆われる山肌、その起伏を歩いていると、予想外に体力と精神力を消耗するものだ。
俺は割と平気なのが自分でも不思議だったが、その他の面々にはこめかみに汗を流す者も見受けられた。
「そういえばソウジは遠征って初めてなんだっけ?」
「ん? ああ―――そうだよ、モッチのアニキ」
俺のちょうど前を歩いていたモッチからそのような確認があった。俺より体格が良い……というか恰幅の良い刈り上げ頭の青年だ。ニールニキよりは年下だろうが、それでも彼は高校生くらいの年齢に見える。
「モッチもまだ数えるほどだろ」
「まぁな」
モッチは同年代の、やや痩せ型の刈り上げであるドラにツッコまれてへっへと笑った。
ドラはモッチよりは遠征の経験があるようで、慣れたものらしい。
あと、彼は普段から寡黙な人物だが、俺としては同じ男としてかなり近しい……というか付き合いやすいものを感じている。実際に、今も会話は少ないくせに俺と隣同士で歩いているしな。向こうが俺をサポートする意味で、歩調を合わせてくれているだけかもしれないが。見習うべき年長者の一人でもある。
「アルは?」
「……俺も遠征はこれが初めてだ」
ニコリと笑うモッチに尋ねられ、俺の斜め後ろくらいを歩いていたアルはぶっきらぼうに答える。
「んじゃソウジと同じか」
「なんで俺がこんな新入りと同じ扱いなんだ!」
年長者にも、その発言が気に入らないとあれば食ってかかる反骨精神。いいよな。男の子はそのくらいでいい。ちなみに肉体的には俺とそう変わらない同年代と思われる。
「アル、新入りと同じ扱いされたくらいで、そうキレんなって」
「テメェが言うなソウジ、コラ!」
ちょっと気性が荒いこの短髪のアルというボウヤは、同年代と言っても、厳密には実際の年齢で言えば俺より何歳か上だろうとのことだが、そんなの、精神的には元・社会人である俺からすれば誤差のようなものだ、誤差。
ちなみに、俺は彼になぜか嫌われている。
あるいは、新入りだがそこそこ器用に立ち回る俺を見て、妬みや嫉みを抱いているのかもしれない。
何とも可愛い理由だ。彼が俺を嫌いになることはあっても、俺の方から彼を嫌いになることはないだろう。よっぽどのことがない限り。
かわいいなぁアルきゅん。でも我慢しようね。今は遠征中だからね。
「―――暗くなってきたな。一つ山を越えたばかりだが、今日はここで野営する」
「「「「了解」」」」
ニールニキの指示に従い、今晩の俺達は山中で野宿することにした。
夜になるまで、周辺の安全確認に食事の準備とやることはあるから、やはり異世界でもこの辺の常識は変わらないのだろうと納得したり。
………ただ、熊スプレーも猟銃もなく、出るのは魔物で、そんなアクシデントに対する俺達は剣だの弓だの魔法だので対処することになるのだろうが。
うーん……リアルファンタジー………。
「ソウジ! お前が料理しろ!」
「へい!」
ニールニキの命令に反射的に応じる俺だったが………ところで俺、やっぱり自炊の腕を買われたのだろうが、コックとして扱われ始めてないか……?




