ローグ生活で頭角を現そう
さて、俺のならずものせいかつ……ローグ生活は、徐々に安定を見始めていた。
元の世界から見て過酷な環境とはいえ、人はやはり慣れの動物。我ながら自分の適応力に驚くばかりだ。
雑用に慣れ、狩りに慣れ(いわゆる”遠征”には同行させてもらえていないが)―――とにかくこの世界の、生活様式も文化も考え方も違う人々に、慣れていく。
今では、定期的に厨房を任されて皆に料理を振る舞う機会も増えたほどだ。
それだけ付き合いを深めて分かったことだが―――俺が今所属しているこのならず者集団、実は単なる「傭兵団」というより「家族」に近い結びつきらしい。
誰かの失敗は皆の責任。誰もが協力して雑用をこなし、狩りや遠征、金品の換金や物々交換で集団を生かす。働かざる者食うべからず、そんなものはもはや当然のものとして、皆が皆、仕事という仕事をしているのだ。
誰が言っていたのだったか………朝は希望と共に目覚め、昼は懸命に働き、夜は感謝と共に眠る………本当に、そんな生活だ。
「………うん。今日もすっきりぱっちり快適な目覚めだぜ!」
少しずつだが、この世界に関する情報も俺の中に蓄積されてきている。
確定しているのはここが異世界だということ、魔法が存在すること、そして科学文明のレベルとしては一回りどころか二回り以上も遅れていること。しかしどうやら、魔法を駆使した生活で言えば発展の尺度を科学によって測れないかもしれないことなど、多岐に渡る。
「さて、今日の俺の仕事は―――」
今日も俺の一日が始まる。
「美味いな、これ!」
「ソウジ、この味付け……一体どこで教わったんだ?」
「えぇと、俺の故郷に伝わるやつっすかね。豆があったんで近いものは作れたかと思うんですけど、やっぱりまだちょっと深みが足りない。麹があったのは助かりました」
「そりゃあるだろ、麹くらい………」
「街に行けば手に入るなんて思わなくて。皆さんは抵抗ないんです?」
「まぁ、つっても最初は俺も抵抗あったなぁ。今は平気だけどな」
「麹って、要はカビ……なんじゃねぇのか?」
「まぁカビの一種ではあるんでしょうけど。でも我々にとって有用な形で食物を腐らせてくれるんで、ちなみにそれは『発酵』と呼ばれる作用でしてね―――」
「―――ほぉん。田舎者のくせに、えらく物知りだなぁ、おめぇはなぁ」
「どもっす」
おかげさまでソウジキッチンは好評も大好評を頂いております。
ちょっとした豆知識をひけらかしたりなどして。
ちなみに今さっき振る舞ったのは、近所でも調達可能な食材を用いた『テリヤキハンバーグ』……いや『ザ・TERIYAKI・ハンバーグ』である。もちろん元の世界の味には遠く及ばないが、できる限りのことはやって実現した味だ。これでも、この辺ではものすごく美味い食べ物らしいからな。誇りたいと思う。
「いつか案内しろよ、お前の故郷」
客の一人がシェフこと俺に向かってそんなことを言った。
「へへっ……ま、まぁ、そうっすね、かなり遠いんで、いつか、ね………」
歯切れ悪い回答しかできない。
こういう場合に「俺、異世界から来ました(てへぺろ)」とか言って、一体どれくらいの人間が信じてくれるんだろうな?
下手をすれば「おめぇ大丈夫かぁ?」などと真面目に心配されかねない。
……そもそも、異世界の存在を皆は知っているのか。その認識が誰しも共通のものなのか、つまり、果たして世に言う「一般常識」なのか。
何だか気になってきたな。その辺のことまで含めて、できれば知りたいところ。
頃合いか。
これまで俺は出自を隠し、ボカし、小出しにすることで詮索を免れてきたが………そろそろ、異世界についてのあれこれの情報を集め出す時なのかもしれない。




