アクシデント
『ゥゥグゥアアアアアアアアアアアア!!』
「「「「「!?」」」」」
捕縛した、何やら意識があるかさえ怪しい男を村に運び込もうとした時だ。
縄を全身に巻きつけ、簀巻きにしていたのに、それがブチブチと千切れる音がした。
男を肩に担いでいたモッチはビックリ仰天。見ていた俺達も同様に動揺。
「モッチ、下ろせ! そいつ、何か変だぞ!」
「あ、あぁ、分かった!」
モッチが男を放り投げ、飛びずさって数メートルの距離を取った。
村に入る前で良かったかもしれない。
まさに村が目と鼻の先という平地で、俺達は地面にドサリと投げ捨てられた、簀巻きの男を取り囲んだ。
「なんだ………どうなってやがる………」
ニールのアニキが動揺した台詞と共に剣を抜いたことで、俺達も抜剣した。
ドラはすらりと抜いた刀のような剣を構え、腰を落とす。何かあればすぐに斬る、そのような体勢だ。
『ゥウゥゥ………………ゥゥゥゥウウウウウウウ!!』
簀巻きの男から、まるで地獄の底から怨嗟を叫ぶかのような、不気味な唸り声が上がる。
その表情は白目を剥いて、口からは再び黒い液体が流れ出始める。
意識があるかさえ怪しいはずの男が、自分に巻きつけられていた縄の束を少しずつ引き千切っている。
あぁヤバいこれ、縄抜けというか縄千切りされるぞとか思うが、俺達は男の様子を眺めるしかない。
できれば生かしたまま連れ帰り、色々と聞き出したいこともあった。もっとも、男が正気を取り戻せることが前提の目算であったが―――。
そう、きっと俺だけでなく、各々が先のことを考えつつ男の様子を注意深く観察していた時のこと。
『―――ウゥ!』
男が短く唸り声を上げた、瞬間。
ゴォッ………――――
「「「「「ッ!?」」」」」
黒い靄が、男の口から溢れ出し、その周りを包んだ。
「――んかヤベぇ、お前ら離れろッ!!」
「「「「ッ!!」」」」
俺達はニールニキの号令がなくとも、きっと飛びずさっていた。
それくらい、目の前の男の雰囲気はおかしかった。
「なんだ……!? ソウジ、あれ、何かな!?」
「分からない。だが注意して―――」
横に並ぶエレンが尋ねてくるが、そんなの俺だって分からない。俺達にできることは、あのよく分からない男を逃がさぬよう、その様子を注意深く観察し、できれば再度捕らえ、それが難しいようならやはり、アニキ達は殺す判断を下すだろう、というくらいしか―――。
そう、俺が一瞬であれこれ考えた時だ。
「……あれ?」
黒い靄が風に流され、完全に晴れるのを待つまでもなく。
その靄の合間に見えた―――男が寝転んでいた位置に、男の姿がないのが分かった。
「男がいない!? 移動された!」
「「「「!?」」」」
すぐに叫んで、男の位置情報に更新の必要があることを知らせる。
アニキ達、そしてエレンも、皆の反応は例外なく早かった。
「どこへ行きやがるッ!」
「いつの間に!?」
「チッ―――!」
ニールニキが、村から離れるように逃げ去る男の背中を発見し、モッチが驚く。ドラは舌打ちと共に、もう走って追い始めている。
「ソウジ、エレン! お前らは村に知らせろ! アイツは俺達で押さえとく!」
「分かった!」
俺とエレンはさっきから村とこちらを往復しかしていないが、しかしアニキの判断は正しい。戦闘経験豊富な彼らにひとまずここは任せて、俺とエレンは村の方に走った。




