凶兆の徒
とりあえずエレンと共に走って村の様子を見て回る。
ここで「不審者が出たぞぉ!」なんて大声を出して回るかどうか。いたずらに混乱を生むだけかもしれないとなれば、判断に迷いも生まれる。
とりあえず、アニキに指示されたのは村の様子を見てくることだった。今はそれに徹しよう。
「ソウジ! こっちは何も異常なし!」
「こっちもだ!」
村を見て回ると、いつもの生活の風景があるだけだ。畑仕事をしている人達もいつも通り。
「どうなってんだ……?」
やはり異常の発見自体が早かったということだろう。
俺は先程の現場に、エレンと共に戻ることにした。
「アニキ達!」
「おう、どうだった」
「村には異常なしです!」
「そうか」
戻ったら、アニキ達は既に例の男を拘束し終え、何事かを話し合っているところだった。
「どうです?」
「いや、なに、捕獲自体はできたんだけどよ………」
ボリボリと天然パーマの頭をかくニールのアニキは背後を振り返り、男の方を見下ろした。
既にその身体から黒い靄のようなオーラは立ち昇っておらず―――。
ただ、その口から、血にも似た粘性を持っていそうな、ドロドロとした黒い液体を垂れ流す、男の肉体が転がっているだけだ。
手も足も含め全身を縄でぐるぐる巻きに、いわゆる「簀巻き」にされているから、思ったより時間的にも作業的にも難易度に余裕のあった拘束みたいだな。
「こいつ、力はバカつええんだけどよ………どうにも、頭をヤっちまってんのか何なのか、そもそも俺達を認識してるのかどうか………」
「えぇ……?」
ニールニキも流石に戸惑っている。
こんなやつ、どうしたらいいんだよ、みたいな。
「クスリか?」
「いや、ヤクともちげぇ。口から黒いのを垂れ流す薬品なんか聞いたことあるかよ」
「……それもそうだな」
ドラももしやと思った推測を否定され、納得を示す。
確かに、薬物中毒者……の態度とどこか似ているが、この男のはそういったものともまた違うらしい。
どういうことだってばよ……。
「どうする? 人一人分だし、重さは大したことねぇ。俺が運んでやるよ」
「サンキュな、モッチ」
恰幅が良く力自慢のモッチが申し出て、ニールニキがこれをありがたく了承。
とりあえず、村長などの意見を聞くために村に運び込むこととなった。
「あの」
「なんだ」
気になったので、話がまとまったところで少し聞いてみることにした。
「これ、例の賞金首……?」
自信がなかったが、ニールニキが簀巻き状態の男を再度見下ろし、そしてまたこちらに視線を戻して、苦り切った表情で頷く。
「まぁ………それも含めて、話し合いだな」
「………」
アニキのいつになく深刻そうな顔を見て、俺は悟った。
何か、俺達の知らないところで、良くないことが起きているのだと。




