異常事態
用心棒任務に訪れた村で数日過ごしていると、村のはずれで悲鳴が聞こえた。
駆け付けると―――村の食料の備蓄などをしまっておく倉庫の近くで、どうやら異常が発生していたらしかった。
「なんだこりゃぁ!?」
真っ先に驚く声を上げるドラの背中も見えた。同じように駆け付けたであろうニールニキ、モッチ、ドラの三人と、他に村の数名の男性。
とはいえ彼らが驚くのも無理はない。あのアニキ達さえ目を見張るほどの光景が、そこにはあった。
「どうしました?」
ひとまず俺は、その場に尻もちをついていた女性に事情を尋ねる。
おそらく第一発見者だろうが、その間も、俺は前方から視線を逸らさない。
なぜかって、それは―――。
『う………………ぅ………………ぁ、ぁぁ………………』
この村ではまず見ない、ボロボロの風体の男。
穴だらけのローブを上から着た、おそらく帯剣していると思われる男だが………何より特徴的なのは、その、生気のない肌………皮膚でも剥かれてしまったのかというほどの、赤茶色の生々しい肌と。
全身から立ち昇る、黒い靄。
爛れた肌以外は、最近になって出始めたという黒魔獣と変わらぬ特徴を持った、正気を失った人間の姿だった。
その口からは、血………いや、真っ黒な液体を垂れ流している。
墨汁ではなさそうだ。独特の粘性を帯びているが………そんなもんを口から吐き出し続けているあたり、そして意識があるのか無いのかさえはっきりしない様子であることからも、どうやら、あの男はかなり特殊な状態にあるらしいな。
彼はやはり村の外から歩いて来たようで、村の外に向かって、黒い液体が点々と続いていた。歩いた痕跡が残っていることをひとまず視認できた。後は、どうする。
「ひ、ヒィッ……!」
絶対に尋常ではないその様子を見て、村の男の一人がかすれた声を出し、逃げていく。
逃げずに残っていた男に、ニールニキは指示を出した。
「村の人に知らせな。不審者が出た、守りを固めろってな」
「は、はい!」
村の男を下がらせ、ニールニキはくいっと顎をしゃくるように首を動かし、俺達に戦闘態勢に入るよう指示を出す。
実にスムーズなことだな。
「ひとまず捕獲、でなければ排除に切り替える!」
「おうッ!」
「フン。奇妙な相手だ、油断するな」
「アニキ達、俺とアルは―――」
「お前らは待機だ、周囲を見張ってろ! 村の方も見とけ、異変があったら教えろ!」
「「了解!」」
凶悪な賞金首はどうなったんだよ、と思いながら、俺はとりあえず出くわした異常事態に、アニキ達と一緒に対処することとなった。




