(5)最終話
ナリアは新たにブルーノ王国の伯爵となったセドリック伯爵領に寝泊まりしてる。
ナリアはレオナルトと婚約したことで準公爵扱いとなっているが領土がない。王城に住まうことができるのだが結婚までの2年間は自由でいたいので王城には住まない。
それにレオナルトは毎日通ってきては『愛している』を言ってから王城に帰る。耳に蛸ができるほど聞いたが悪い気はしていない。
セドリックがセシリアと結婚したからリゼット母さんが可哀想だと思っていたけど私に能力が発現したからすべてわかったわ。
セシリアはリゼット母さんだった。あの白々しく古ぼけたように見せていた手紙も全部お芝居だったのね。妹だったら悪いから王城に住むつもりだったけどリゼット母さんとわかったのだからここにいるわよ。
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◆10年前 リゼット視点◆
フォン家は女子だけに治療魔術の能力が遺伝する。治療魔術は相手の額に手を当てることで発動する。私は他の魔法も使える。変身魔術と一子相伝魔術だ。ナリアが生まれてまもなくタリアナ国王から病気を治せと呼出があった。
あの男の病気は私では治せない。肥満病なのだから食事制限すればいいだけだ。王城に行く前に『妹にあなたの世話をするように言ってあるからできれば妹を私と思って結婚して一緒に暮してほしい! 』とセドリックを洗脳しておいた。
タリアナ国王から処刑を言い渡された私は変身魔術で国王の母に変身した。処刑されたのは私に変身させていた王の母だ。この母は国王など足元に及ばないほど強欲で残忍だったから死んでも国民は困らない。私はその後兵士に変身して堂々とユルハラ子爵邸に帰った。国王の母が失踪したと大騒ぎだったけどね。
セドリックの頭が良くなくて助かったわ。私の手紙が書斎にあるわけないでしょ!それもあなたの机の上に見えるように置いたのよ。私がタリアナ国王に呼ばれたときには無かったでしょ。
それに10年もピッタリ魔力の発動をさせないようにできると思ってるの!!毎日ナリアの寝室に忍び込んで魔力発動を制止していたのよ。
一子相伝魔術は1度しか使えない魔術で、しかも15歳未満でないと発動しない。私はもう18歳だ。子供に託そう。一子相伝魔術が必要になるまでなるべく魔力を使わせないようにすることにしよう。副作用を少しでも緩和させたい。普通の病気であれば私が治せるのだから。
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セドリック伯爵領では一人も奇病に罹患していない。軽い症状が出たらセシリアが治療していた。セシリアの治療魔術は一子相伝魔術をナリアに移転したため花が咲かない。そのためナリアより威力が弱いが、初期の段階であればこの程度の瘴気による病であれば造作なく治せる。
タリアナ国王はいつものように上級貴族とともに外国産の世界名水で作られた料理とお酒を飲みながら税率をあと何十パーセント上げるかという話をしていた。
「どんどん絞ればいくらでも出る。国民とはそういうものだ」
「そうですな。我らは特別だから流行病にもかかりません。ふぁははは!」
とうとう革命が起きた。国王の首を落としたのは国王を守るべき近衛兵だった。彼らの家族も奇病にかかり命を無くしていた。上級貴族もそれぞれの護衛から首を落とされた。
私とセシリアと名乗る母リゼットは治療魔術でブルーノ王国内の人々を治療している。だけどあまりにも急速に広がる奇病に間に合わない。すでに国内の死者はブルーノ王国総人口の4分の1に達している。隣のタリアナ王国は2分の1に達していた。
私はセシリアと名乗る母リゼットに声をかけた。
「このままではイタチごっこだわ。そのうち人がいなくなってしまいます。もうあれを使うしかないと思うよ」
セシリアがうつむいたまま呟く。
「私がもう少し若ければ……悔しい……」
「いいよ。リゼットお母さん」
セシリアが顔を上げ叫んだ。
「私がリゼットだと知っていたのですか?」
「魔術凍結が解除された日に見えるようになりました。でもタリアナ国王のことがあったのでそのままのほうがいいと判断しました」
「ごめんね。私が若ければ私が使うのだけど、ごめんね」
「いいよ。もうこれしか方法がないのでしょ!!」
「古文書によればこれまでの最高は20年です。でも今回はブルーノ王国だけではなく隣のタリアナ王国まで救うつもりでしょ。どれだけ長くなるか見当も付かないわ」
「いいよ。でもお母さんはがんばって長生きしてよ。私を最初に出迎えるのはお母さんであってほしいもの」
「わかりました。食事など節制してその時がくるまで必ず長生きします」
レオナルトも私の元に来て『いつまでも待っています』と言った。
私はいつのまにかこの一途なバカ王子を好きになっていたようだ。
ナリアはマル秘古文書のとおり両手を空に掲げ魔力を放つ。空に1本の光が発生して広がっていく。私は体から絞り出すように空に向けて全魔力を放つ。空には大きな七色の虹が出来た。そして虹は大きな白い百合の花となった。百合はどんどん大きくなり、ブルーノ王国とタリアナ王国を包むほど大きな大きな白百合となった。
それから両国を包むほどの白百合は灰色からどんどん黒くなり、上から剥がれていき、そして枯れるように消えた。
ロングスリープフラワーが消えると同時にナリアは崩れるように倒れた。
ナリアの顔は満足げだったが、まったく動かない。揺すろうとさすろうとナリアは目を覚まさない。
ぐったりしたままだ。手も足もだらり垂れたままだ。端からは死んでいるように見える.
リゼットは大声で泣きながらナリアを抱いてセドリックとともに伯爵領のナリアの部屋に戻る。
ナリアがいつも寝起きするベットにゆっくり寝かせ、そばにはナリアが好きだったぬいぐるみを置く。
もうこの子は目を覚まさないかもしれない。
リゼットは一晩中ナリアの側で泣いていた。
背中をセドリックがさする。
ブルーノ王国とタリアナ王国では突然死にそうだった子供が『あ~よく寝た』と起き上がり、大人は『早く仕事に行かないとクビになる』『そうだわ。ご飯の支度をしなくちゃあ』『君のことが好きだ!結婚して欲しい』など時間の間隔がずれた人々が寝ぼけたように瘴気の苦しみと眠りから目覚めた。
一人の少女を除き……。
春が来て夏が、そして秋から冬がきて、また春がきて、10年が過ぎた。
それから20年が過ぎた。
そしてまた春がきて……。
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「あ~よく寝たわ。でも体が少し重たいな」
私はゆっくり起きる。私のまわりには知らない人ばかりがいた。私の声を聞くと、一人のお婆さんが近づいた。
「あーよかった!!私が生きているうちに会えた!!」
「誰?」
「わからない?」
「誰?わからない。こんなお婆さんに知り合いはいない」
「あれから50年たったからね」
「え!もしかしてリゼットお母さん?」
「あれから50年。とても長かったわ」
「お父さんは?」
「去年、亡くなったわ。ヨボヨボになったのに最後まであなたのことを心配していたわ。私もこんなに年老いて白髪で皺だらけだけどまだ生きているわ」
「だったら私の姿もお婆さんになったの?」
お母さんは黙って私に鏡を向けた。
私の顔はあのときのまま子供の姿だった。大魔法ロングスリープフラワーの副作用で体が成長していない。
「それじゃあ。レオナルトは?」
「現国王よ。あれからすぐに狂ったように奥さんをもらって今では30人も奥さんがいるわよ。しかも子供は40人よ。でもあなたを裏切ったわけではないのよ」
「子供同士で相続争いが起きそうね」
「そんなことないわ。あなたが目覚めたから、あなたと近い年齢の子が婚約者となるわ。ほかの子は全員女の子だからね。レオナルトはあなたがいつ目覚めてもいように毎年奥さんをもらって子供を作っていたのよ。でも男の子は1人しか生まれなかったわ」
「だけど、その子が私との結婚を承知しないかも?」
「大丈夫よ。見てご覧。あの柱の陰でモジモジしている子。あなたをずっと見てるわ。あの子よ。毎日あなたの姿を見ては『早く起きないかなあ。この子がいいんだけどなあ』と言ってたからね」
男の子が私の前に来た。
「僕はダリッチといいます。僕と結婚してください」
レオナルトの遺伝子はこの子に引き継がれていた。
◆3日後◆
レオナルト国王の告示により国民が知ることになりナリアの目覚めとレオナルトにそっくりなダリッチ皇太子との結婚を祝って盛大な式典となった。
レオナルト国王が宣言した。
「ダリッチ・ブルーノとナリア・ユルハラの結婚を宣言する。ブルーノタリアナ王国はこれよりナリア王国と改名する」
<Fin>
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