(4)
ブルーノ王国、謁見の間にて
「此度の働きには感謝する。特にナリア殿には感謝してもしきれない。セドリック・ユルハラ殿の働きに感謝し、そなたを伯爵に任ずる。リゼット殿の領地をセシリアとともに守ってくれ」
父が呼ばれたのは伯爵位の任命のためだとわかったのだけど、私は何で呼ばれたの?
「ところでナリア殿!」
「は、はい」
「あそこの柱の陰でこっちを見ているやつのことだが……」
「は?柱?あ、いた。あの子元気になったのね」
「そこでもじもじしてないで、ここに来い!」
あのときの子が私の前に来て手を前に出した。
「早く言え。みんなが待っとるぞ!」
「は、はい」
「?何がしたいのこの人達」
「私と結婚してください」
「は?」
「あなたに惚れました」
「はあーーー?」
確かに66歳の爺ちゃんよりいいけどなぜ?
「私はこれまで沢山の方から婚姻の申込みがありましたが、一人もいいと思った人がいませんでした。みな私の地位にだけ興味があったからです。ところが貴方を一目見たときから心が騒いで眠れないのです。何人もの医者に診てもらいましたが、私の病気は医者には治せないと言われました。治せるのはあなただけです」
「はあ。そうですか求婚はこれで二度目ですよね」
お父様の方を見るとニコニコしている。でも私を見てるわけではない。セシリアを見てニコニコしている。私の心配をしてよ。まあ相手の顔は悪くないし結婚と言っても12歳にならないとできないため、婚約だろうから、あとで断ることもできるし、まあいっかーーーーー!!
「わかりました。お受けします」
「そうか!それはありがたい。レオナルトでかしたぞ!!」
レオナルトよりも国王の方が喜んでいる。
それは国王の偽らざる反応だった。リゼットの治療魔術がナリアの帰還によりタリアナ王国からブルーノ王国に戻ってきたのだ。これほどめでたいことはない。
それからレオナルトは私を訪ねてきては甲斐甲斐しく尽くしてくれた。恋愛感情なんかがない人であっても、ここまで愛されると悪い気はしない。そのうち愛情というより母性のようなものが生まれた。
頼りないけどいいかあ。
さて、タリアナ王国だが、カルロ・タリアナ国王の指示のもと古文書にロングスリープフラワーが咲いたと記述がある旧ユルハラ子爵領の百合の花を片っ端から掘っていた。だがどこを掘ってもそれらしいものは出なかった。記録によればロングスリープフラワーは百合の花のような形だが百合の花よりも長くそして大きく咲くとされている。葉は無く、花は1本しか咲かず大きさは咲く度に違うようだ。色は白とも黒とも記述がある。
王立図書研究員によれば古文書の記述はやや大げさではないかという結論に達していた。なぜなら、ある年は人の大きさぐらいだ。ある年は子供の背丈くらいだ。またある年では城よりも大きいという記述があった。
今年必ず咲くということだけは判明しているから旧ユルハラ子爵領には5万人の兵士を駐在させ他領からの人の出入りを制限していた。
タリアナ王国では奇病が広がっているというのに国王は何ら手を打たずに自分の病気を治すことだけを考えていた。
門番が交代する時間になった。
ドミニク川から流れ出た瘴気は各支流にそして王城側のソコヤミ川にも達していた。
「おう、交代だ」
「もうそんな時間か?」
「最近の水は少し不味くないか?」
「そうなんだ。いくら煮沸しても苦みが消えないんだ」
「まあ、そのうち元に戻るだろうよ」
「では交代の申し送り……」
「ドテッ……」
「おい、どうした。しっかりしろ。大丈夫かしっ……」
「ドテッ……」
タリアナ王国の王城も確実に奇病が蔓延していた。
国王と上級貴族のまわりの者はバタバタ倒れていく。
美食家の国王と上級貴族は国内産のものは食べず、水に至るまで世界の名水を輸入したものを使っていたから王家一族と上級貴族は奇病になっていない。それゆえ庶民の苦しみが全く理解できていない。自分たちは神に守られていると勘違いしていた。
何もしない国王に対して国民は暴発寸前だったが、国王以下上級貴族は何も知ろうとせず、今日も美食を味わっている。