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 私の状態が落ち着いたので

「では王城まで行くことにしよう。ナリアとセシリアも来てくれ」

「お父様、どこの王城に行くのです?」

「ブルーノ王国の王城だ」

「私達は平民ですよ。門番に相手にされません!」

「心配するな。確かにタリアナ王国では平民だが、お前はこの国の伯爵だ」


「何言ってるのですか。私はお父さんの子だから平民ですよ」

「ナリアは母リゼットのすべてを継承した。この国の伯爵だった地位もナリアに継承された。だが10歳になるまではその地位を凍結されていた。ブルーノ国王も了承済みだ」


 馬車を飛ばして王城に向かう。父からは母の手紙があるから王城に着くまで読んでおくように言われた。


 私はセシリアの本当の正体が分かった。セシリアはリゼット母さんの妹なんかじゃない。一子相伝魔術を開眼してからセシリアの術を見破ることができた。リゼット母さんは食えない人だった。


 わざとらしく茶色に薄汚された手紙を読んだ。

『あなたがこれを読んでいるということは10歳になったのですね。ああ!!私のナリア。あなたの10歳の誕生日を一緒に祝いたかったわ。きっと綺麗になったのでしょうね。

 私の母は元々ユルハラ子爵家の三女で一子相伝魔術を継承した人でした。そこに学生時代の父が卒業旅行でブルーノ王国を旅行をしているときにフォン伯爵領で重篤な病にかかったのです。母が治療しましたが父に惚れてタリアナ王国に嫁いだのです。セドリックは他領の伯爵の次男でしたが子のいないユルハラ子爵の養子となりました。運命でしょうか。

 セドリックと私は出会ってしまったのです。セドリックが旅行中にフォン伯爵領を相続していた私の領地(リゼット・フォン伯爵領)で倒れてしまいました。たまたま近くで買い物をしていた私が治療魔術で治したのですが、私は彼の誠実さに惚れてしまいました。私には姉弟姉妹がいなかったので領地の運営を執事のジミニク・ドナに任せてセドリックに嫁ぎました』


 すごい、お母さんは飛んでる。続きが早く読みたいのだけど、早馬車は揺れて字を見てる私はやや酔ってしまった。


 気を取り直して続きを見る。


『この手紙を読んでいるということはあなたの能力が必要とされているのでしょう。能力の発動は簡単です。怪我や病気の人がいればあなたのどちらの手でもいいですが、その人の(ひたい)に当ててください。そうすれば自然に発生します。

 もう時間がありません。国王の迎えがきます。私は天国からあなたのことをいつも見ています。私はナリア!あなたを愛しています。母リゼットより 追伸……』


「うえーーーーーーーん。お母さーーーーーん」と言って泣くと思った!!泣くわけないでしょ。さっき書いたようなこのインクの臭いの残る手紙に私の心は(おど)らないわ。



 手紙の追伸を読む前に王城に着くと門番が近寄ってきた。

「ナリア伯爵だ。ここに国王が相続を認める書状がある。至急取り次いでくれ」

「貴殿のおっしゃることはわかり申した。ですがこれが本物か私には判断できません。しばらくお待ちください」

門番は書状をもって王城に走って行く。


 しばらくすると王城からミラン宰相と名乗る者が()け足でやってきた。


「来てくださったのか!!急いでくだされ!!」


謁見(えっけん)の間に案内されると、国王マルティーノ・ブルーノⅢ世が待っていた。


「おお、あなたがナリア殿か。リゼット殿に(うり)二つだ。挨拶もそこそこで済まないが息子が危ない。医師団も手の尽くしようがないと言っている。時間が無い、すぐに頼む」


 私は数人の医師が見守る中、苦しみもだえる男の子の前に案内された。12~13歳だろうか、今にもお迎えがきそうな状態だ。私にはこの子を治す自信がない。お母さんは嘘を言わないだろうが私にそのような能力があると思えない。だけど、ここまできてはもうやるしかない。


 私は男の子の額に右手を当てた。


「何の変化もない」


 えーーーー!どうしよう。なにも変化がないわ。それなのに父と国王の顔を見ると何も疑っていない。セシリアがなにやら汗だくになりながら両手を当てろとジェスチャーしている。

 やけくそだ。両手を額に当てる。


 そのとき突然七色の虹ができた。虹は男の子の頭の上で真っ赤な薔薇に変化し、徐々に茶色になり枯れながら少しずつ黒い薔薇の花になり花びらがひとひらずつ落ち、消えた。


「あーよく寝た。あれ!みんなどうしたの?うぉ!きれいな人だね。結婚してください」

「あのね。初対面の子にいきなりそれはないよ」


 レオナルトはずっと夢を見ていた。夢の中で女の子に恋をした。寝起きに突然目の前に夢の子が現れた。本人にとって求婚は当然のことであった。


「レオナルト大丈夫か?」

「父さんどうしたの?涙が出てるよ」

「あーよかった!!」


 国王がレオナルトを抱いて涙しているが、レオナルトはナリアしか見ていない。



「すまない引き続きで悪いが王妃も頼みたい」


 隣の部屋に案内されたが医師団はいなかった。もう手の施しようがないから医師団はレオナルトの治療に専念していた。


 私は呼吸も浅くなって死を待っているだけの王妃の額に両手を当てた。

 七色の虹ができた。そして王妃の頭上で紫紺のリンドウに変化した虹は、徐々に枯れながらまっ黒なリンドウの花になりポトリと落ち消えた。


「あーひさしぶりによく寝たわ。あれ!みんなどうしたの?」

「ああーーー!ジェーンよかった。儂のジェーーーーン」

 国王が涙をボロボロ流しながら王妃に抱きついた。


「あなた。何してるの。みんなが見てるわ。続きは寝室にしてよ!!」


 親子がよく似た反応をする。

 側近が王妃にこれまでのことを話しているが、私は次の部屋に向かう。


「母は年ゆえ(あきら)めていたができれば助けて欲しい」


 私は呼吸もほぼ止まりかけた国王の母の額に両手を当てた。

 七色の虹が現れ、国王の母の頭上でピンクの紫陽花に変化した虹は、一瞬でまっ黒な紫陽花の花になりポトリと落ちて消えた。


「あーよく寝たわ。年をとると寝られないのだけど、こんなに寝たのは久しぶりだわ。あれ、みんなどうしたの?」


 国王の母マーガレッタはキョロキョロしているが国王を見るなり

「国王がそうそう泣くものではありません。マルティーノ背を伸ばしなさい」


「……」


 国王になっても母親には頭が上がらないようだ。


 国王がセドリックに『あれは何か?』と聞く。

「あれはただの治療魔術です」

「皆黒い花になっていたぞ」


「色は黒になる時間が早いほど死が近かったことを表します。そして花は患者のもっている人柄を表しています。いわゆる花言葉ですな。当然人によって花の形は違います」



 なんとか終わった。そうだ追伸を読むのを忘れていたわ。


『追伸:まだ10歳では手が小さいから額を埋めることはできないでしょうから両手を置きなさい』


 あーーーあ!!早く読むんだった。(あせ)って損したわ。

 でもセシリアが教えてくれたから出来たけどね。あなたが一緒にきたのだからあの手紙は必要なかったのではないかしら?


 それから3日後、ナリアとセドリックは再び王城に呼ばれた。



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