(2)
しばらく沈黙が続いたのち父はポツリと話し始めた。
「お前には話していなかったが、お前の母さんは病気で死んだのではない。タリアナ国王に殺されたのだ」
「え!どういうことです?」
「お前の母リゼットは治療魔術を使ったが、もう一つ特別な病を治す力があった。お前が生まれてまもなくタリアナ国王から『儂の病を治せ』と命令されたが治すことができなかったため『偽善者を殺せ』と言われ処刑されたのだ」
「お母様には本当にそんな能力があったの?」
「ああ、お前が生まれるまではな」
「?」
「国王に呼ばれたからお前にその能力を渡したのだ」
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◆10年前◆
リゼットがタリアナ国王に呼び出された日、近衛兵が来るまでのほんのわずかな時間。
「あなた!お願いがあるの。ナリアは生後2箇月ですが、私はこの子に一子相伝の私の能力を渡します。強欲なタリアナ国王ですから私の能力を知れば私をここに帰してもらえないでしょう。このまま別れるくらいなら死んだ方がましです。この子が10歳になるまでこのことを必ず隠してください。10年後もあの国王が生きていたらこの子が同じ目にあってしまいます。それまでできるだけ遠くに逃げてください」
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「あれから儂はお前だけが心の支えだった。
ナリア、いよいよその時がきた。お前は今日10歳になった。お前の能力は10年間リゼットによって封印されている。儂はこれまで10年後に来る今日のために準備をしていた。
この牧場は儂の部下に運営させていたものだ。それにあの金貨1万枚はここにある。金庫に入れてあった金貨は鉛だ。あの国王と宰相は毎回どこでも同じ方法で貴族から金を巻き上げるから準備はしておいた。お前には苦労をかけた。お前にはギルベルト宰相のスパイが放たれていたから本当のことが言えなかった」
「そんな人いた?」
「お前のよく知っている女だ」
「セシリア来てくれ」
「え、セシリアだったの?今日も美味しいシチューを作ってくれたのに?」
「あなたをこれまで偽っていました申し訳ございません」
「スパイなの?」
「いいえ違います。私が言いたいのはそこではありません。私はあなたの母の妹です」
「ナリアすまない。これまで秘密にしていたが彼女はお前の母リゼットの妹のセシリアだ」
「10年前にリゼットの遺品を彼女の生まれ故郷に届ける準備をしていたら儂宛の手紙が書斎から見つかった。手紙には『私は国王に殺されるだろうからできれば私の代わりに妹セシリアと結婚してナリアを守って欲しい』と書かれていた。
それからセシリアは儂の心と体の支えとなって尽くしてくれている」
「黙っていてごめんね。スパイがいたから本当のことが言えなかったの」
「お父様とセシリアは結婚しているの?」
「いいえ。セドリックはすぐには結婚しないと言ったの。あなたが10歳になって家名を継ぐまで私と結婚しないと決めていたのよ。すこし嬉しかったわ。だから今日はあなたの10歳の誕生日だけど私とあなたが再び親子になった日なのよ」
「再び?」
(おかしなことを言う。あなたとは親子になったことはないよ)
ナリアは何が何だかわからない。まわりの展開があまりにも早すぎる。10歳の子には少々重たかった。
セシリアは続けて話した。
「スパイはジーナだったわ。前々から疑っていたのだけど尻尾を出さなかったの。だから3日前にあなた専属のメイドになって揺さぶりをかけたのだけど、彼女はまんまと引っかかったわ」
「尻尾?なにが?」
あの日は急遽フォークダンスになりましたよね。あの話を聞いたのはセドリックとジーナに私です。だからジーナが言わない限り国王が知ることはできないのです。
「それで、ジーナはどうしたの?」
「ああ、やつは儂らが追放になった日にセシリアが殺した。他のメイドが言うには、そりゃあもう、これでもかというほど残忍な殺し方だったらしいぞ。これまで10年間我家のことを国王に報告していたからな。だが一番許せないのはセシリアの耳元でしつこく『担当をやめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ』と言っていたことだ。セシリアの耳元で囁くことができるは儂だけだ!!」
「セドリックたらーそんなこと言って。恥ずかしいわ。いや~ん」
「ずっと思ってたのだけど、あなたがここにいるのは不自然よね?」
「そう思われましたか?正解です。解雇されたメイドは全員ここにいますよ。もともとここで働いていたメイドですからね」
しばらくバカップルの“いちゃいちゃ”が続く。ナリアはまだ母親ができたことに理解が追いつかなかった。
バカップルがいちゃついている姿を見ていた私に落雷のような衝撃が走った。
「く、苦しい」
「大丈夫か!!」
お父さんが心配して駆け寄ってきた。
私の体が光り出した。
セシリアが治療魔術で痛みを和らげてくれ、父に聞こえないように私の耳元で囁いた。
「心配しなくても大丈夫よ。私も母から受け継いだとき同じだったから。でもいいこと、私のことをセドリックに言ったらダメよ。今2回目の新婚を楽しんでるのだから」