花火
屋台も出て、皆花火までの時間をりんご飴や射的など楽しみながら歩いていた。
私も不慣れな下駄に苦戦しながらも、楽しんでいた。
どの位歩いただろうか、ふと足に痛みを感じた。見ると鼻緒で指の間が擦れ血が出ている。
それでもしばらくは、皆について行っていた。しかし、痛みは増すばかり、とうとう遅れ始めた。
優奈にトイレに行くと伝え抜け、比較的人通りが少ない石段の端っこで休んでいた。
正確には近くのコンビニまでの距離の長さに挫折し、絆創膏を諦め座りこんでいたのだ。
壮大な溜息をつき気持ちを奮い立たせ顔を上げた、そんな私の目の前に誰かのつむじがあった。
「はい、足出して、絆創膏貼るからさ。」
声と柔軟剤の香りで乾君だと気付いた。
「えっ、なんで?乾君?」
彼は顔を上げて笑った。
「ほらほら、早く。もう完全にアウトでしょ、その足。なんでこんなになるまで我慢してたかなぁ。」
気恥ずかしくて「いいよ、自分で貼るから。」と言う私に、
「良いから、良いから、早く。」と彼は急かした。
私は勇気を出し足を少し前に出した。
彼は優しく自分の膝に私の足を乗せ、絆創膏を貼ってくれた。
恥ずかしくて俯いたまま「ありがとう。」と言った。
ふと見ると、彼のポケットに絆創膏の箱が見えた。そこのコンビニのシールが付いている。
私は今度は真っ直ぐに彼を見て「ありがとう。」と言った。
その時、大きな音と共に夜空に花火が上がった。一斉に花火に視線が集まる。
私は焦って彼の背中を軽く押して言った。
「乾君、皆が待っている早く行って。私も後からゆっくり行くから。」
「三木、お願いだからもう少し危機感を持って。こんな夜に浴衣の可愛い子が一人でいたら、もうそれは襲って下さいって言いてるようなもんよ。
大丈夫だよ、皆花火に魅入って、俺の不在に気付くヤツなんていないよ。」
今度は連続して花火が上がる。彼は私の耳に顔を近づけ
「ここからでも見えそうだな、座ろうぜ。」と言って、羽織っていたシャツを石段に轢いてくれた。
距離の近さに私の胸は高鳴った。
私達は石段に腰掛け、次々と上がる花火を見ていた。