表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/23

 それから彼はよく図書館を訪れるようになった。

いつも決まって体調が悪そうな時にやってきて、奥の人通りの少ない通路にしゃがみ込んでいた。

私は気が気でなかった、いつか彼が倒れてしまうのではないかと思って。

不安で何度も彼に寄り添った、出来ることは背中を擦るくらいだけど。

決まって彼は少し笑って私を見ては、少し掠れた声で「大丈夫だよ。」と言った。

そんな彼の笑顔を見ると、私は心を鷲掴みにされたような気持ちになった。



 窓の外、蝉の鳴き声が夏の到来を告げていた。

そんな夏休みの図書館に乾君はよく顔を出した。体調が悪くないのに図書館に来る彼はいつもと違う一面を見せた。

彼は決まって窓際の席に座って勉強をしていた、勉強に飽きると休憩がてら図書館の本を見て、また勉強。どれだけ図書館が好きなんだと私は笑った。

少し日に焼けた彼は以前より元気そうに見えた。ただその割に発作の回数が減らないことに私は不安を感じた。


 この頃になると私は乾君の発作が収まる迄の間、背中を擦りながら『本』との思い出話をした。大方は祖母との思い出話だった。


 ある日ふと小さい頃に、図書館で出逢った小さな男の子のことを思い出した。

その子は、受付けの女性に紙を渡して本を探して欲しいと頼んでいた。

女性は少し調べてから、貸し出し中だと告げ予約を進めた。

しかしその子は、「次に、いつ来られるか分からないのでいいです。」と悲しそうに答えた。その姿が本当に悲しそうで、私は気になってメモを盗み見た。

それは私が先程、貸し出しの手続きをした本だった。

本好き同志を見つけたようで嬉しくなった私は、すぐに図書館の女性に申し出て彼に本を譲った。

彼はとても嬉しそうにお礼を言って帰った。


 その後、私が図書館でその本を借りたとき『ありがとう』のメモと四つ葉のクローバーの栞が挟まっていた。きっとあの男の子だと思い私は栞を大事にしまった。

私はまた、彼に会ったら本について話をしようと思った。しかし、その男の子に逢うことは無かった。

いつかこの話も乾君にしよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ