耀
私の時間はあの白銀の世界で止まったままだ。全てあの雪の日に残してきた。
彼を初めて見た日、それは高校の入学式から1ヶ月後の5月連休明けだった。
前日、担任から退院後に初登校する同級生情報を貰っていた。
だから、皆、好奇心の入り混じった表情で見つめていたが、デリケートな質問を口にする者はいなかった。
彼は、少し色白だが強い意志を感じさせる眼差しで教壇に立った。
「乾 碧です。よろしくお願いします。」
発した言葉に抑揚はなく無愛想で、私は全然『よろしく』じゃないじゃんっと心で笑った。
そして陽に耀く乾君の金髪に心奪われた。
そんな最初の無愛想印象とは異なり、彼はあっという間にクラスに溶けこんでいった。
体育こそ見学することが多かったが、勉強は入院のギャップを感じさせず優秀だった。
特に理系教科は学年でもトップクラスだ。
とても遅れて入学したようには感じられなかった。
いつの間にか、男子達の笑顔の中心にはいつも乾君がいて、彼の周りでは笑い声が絶えなかった。
女の子のファンもいたが、何故か彼が女の子と話す姿はあまり見なかった。
遠ざけているようにすら感じた。実際、何人かの女子が告白をしたと聞いたが、彼が誰かと付き合ったとは聞かない。
そんなある日、席替えで彼の後の席になった。
私は一番後ろの席だったので、どこか開放的な気持ちで毎日陽に耀く彼の髪を見ていた。
そして私は見てしまった、普段の彼からは想像できないほどの寂しそうな横顔。
窓の外に視線をやるときに一瞬見せる彼の表情、何故そんなに悲しそうのだろう。
そんな彼が気になり、気が付くと彼を目で追っていた。