60:作戦決行
許可書を持っていたので、柚乃と私は問題なく、広場の中に入れた。
私達の対応をした天使はこう言った。
「もし神官がいる近くのエリアに行くなら、護衛の騎士をつけます。でも武器を格納する小屋のあたりであれば、邪魔にならないようにするなら、二人で自由に動いていいですよ」
護衛がつくといろいろ面倒なので、武器を格納する小屋のあたりに向かった。そして一番見晴らしがよさそうな場所に陣取り、18時を待つ。
既に空には夜の帳が降りている。
「あ、見えてきたよ」
柚乃の言葉に目を凝らすと、地上から戻る天使の姿が見えてきた。
私達は真剣な眼差しで、その姿を追う。
「あ、いた!」
柚乃の予想通りだ。
明日に備え、今日は前回より早い時間に帰還していた。
いよいよ作戦決行だ。
忘却の矢は分解し、私の手の中には、矢じりが握りしめられている。
これをガブリエルに突き立てる。
消す記憶は一週間分。
帰還したソフィアは神官による清めを受けていたが、ガブリエルは自らの癒しの力で武器も自分自身も清めている。そして神官によるソフィアの清めが終わると、二人は丘の方に向け、歩いてきた。
私達は二人が向かう先に移動する。
まずはソフィアの排除だ。
「ソフィアさん!」
私が声を掛けると、ソフィアは愛らしい笑顔でこちらを見る。
この笑顔でガブリエルの心を掴んだのか……。
不意に憎々し気な気持ちが芽生え、私はハッとして心を落ち着かせる。
久しぶりにソフィアに会ったはずなのに、すぐに悪役モードになってしまう。
ゲームの設定は恐ろしい。
私は一呼吸ついてから、口を開いた。
「マティアスさんから伝言を頼まれました。何やら用事があるそうで、悪魔狩りから戻ったら部屋を訪ねて欲しいと」
「あ、そうなのですね。分かりました」
あっさりソフィアは応じ、ガブリエルを見る。
「ではガブリエル様、今日もありがとうございました。明日は休ませていただきますが、また明後日、よろしくお願いします」
ガブリエルは頷き、ソフィアは翼を広げると、すぐに街の方へ向け、飛んでいった。
ふん。楽勝じゃない。
ハッとして、我に返る。
またも悪役モードになっていた。
純真無垢で疑う心を知らないソフィアで良かった、と心の中で言い直す。
「ガブリエルさん、少し時間、よろしいですか?」
私が声をかけると、ガブリエルは「何かな?」と応じる。
その声、仕草、姿に、胸が高鳴るのを必死に押さえ込み、口を開く。
「少し歩きながら話したいのですが、いいでしょうか?」
ガブリエルは頷き、私は彼の隣に、柚乃は私の隣で、三人並んで歩き出した。
まずは柚乃が誰であるかを紹介する。
古の悪魔の魔力を宿した剣を、あの日拾い上げたのが柚乃だと知ると、ガブリエルは「大変だったね。怪我などなくてよかった」と、優しい眼差しを柚乃に向ける。
なんて綺麗な眼差し……。
ゲーム設定のおかげで、うっとりとした反応をしてしまう。
一方の柚乃は……。
ガブリエルを視界に捉えてからずっと、頬が緩みっぱなしだ。
当然の反応だろう。
ガブリエルは見るからに優美な美青年。
輝くようなシルバーブロンド、エメラルドグリーンの瞳。雪のように透き通った素肌を持ち、見る者の心を溶かすような笑みを見せる。
マティアスへの仕打ちを除けば、大天使であり、性格も真面目だし、まさに柚乃が言う通りの優良物件だ。
ようやく丘の入口の道についた。
ここからが勝負だ。
「エルサはガブリエルさんに話したいことがあるんだよね」
私は柚乃に目配せをする。
柚乃はしおらしく頷く。
「あの、ここではなんなので、あそこのイチイの巨木あたりまで、移動してもいいですか?」
初対面の柚乃に、天使に対し、ガブリエルはあくまで親切な大天使だ。
「構わないですよ」
そう言って歩き出す。
これで神殿までの距離が、半分近く縮まる。
ガブリエル、その隣に柚乃、柚乃の隣に私、という並びで、イチイの巨木へ向かう。
柚乃の説は正しい。
モブ扱いになる柚乃とガブリエルが並んで歩いたところで、私の悪役モードのスイッチが入ることはない。
一方、ガブリエルの隣で歩き出した柚乃は……。
「丘のランタンは誰が管理しているのか」とか「昼間はここにいる精霊はどうしているのか」とか、わりとどうでもいいことを、とても熱心にガブリエルに尋ねている。
対するガブリエルは、そのどうでもいい質問に真摯に回答していた。
やっぱりガブリエルは真面目だ。
あっという間にイチイの巨木に到着する。
シミュレーション通りに私は移動し、柚乃も私の動きにあわせ、配置につく。
いよいよだ。
「実は、ガブリエルさんに折り入って話がありまして」
柚乃がガブリエルをひきつけたその時。
私は手にしていた矢じりを、ガブリエルの背中に突き刺す。
一週間分の記憶を忘れてください。
そしてゆっくり矢じりを抜いた。
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次回更新タイトルは「失敗した!?」です。
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